古代の人々は、最初のうちは単純に穀物を「叩いて」、割っていましたが、これは流石に効率が悪く、そのうちに「擂り潰す」方法を考案しました。そしてパンづくりの起源といえば、従来は1万数千年前のシリア北部と考えられていました。しかし2004年8月号のネイチャーによると、2万2000年前のイスラエル北東部のオハロ遺跡から出土した石皿には、野生の小麦などのでんぷんが付着していたというので、パン作りはこの頃、既に始まっていたのかもしれません。いずれにしても何万年も昔に、製粉は既に始まっていたことになります。

現在、製粉用の道具として一応名前のついているものでは、紀元前4000年頃の古代エジプトで使用されていたサドルカーンが最初で、これは大根や生姜を擂(す)るような前後運動によって製粉する簡単な道具です。普通、石臼といえば私たちがイメージするのは丸い回転式ですが、このタイプが登場するのは、その後ずっと後の紀元前1000~500年頃で、ロータリーカーンとよばれています。

「往復運動」でも「回転運動」でも大した違いはないじゃん、と私たちは思いますが、古代の人たちにとって、このハードルは高く、往復運動のサドルカーンから回転運動のロータリーカーンに移行するまでは、なんと3000年という気の遠くなるような時間がかかりました。以後、部分的な改良は加えられますが、19世紀後半に製粉史上最大の発明と言われる「ロール式製粉機」が登場するまで、この回転式の石臼が更に2000年に亘り、主役の座を占めてきました。

ところで、このロール製粉機の原型を最初に考案したのは、イタリア人のラメリ(Agostino Ramelli)で、1558年のことと言われています。で当時、この界隈でどんな出来事があったかといえば:
1498年 – レオナルド・ダ・ヴィンチ、最後の晩餐(ミラノ) 
1555年 – ノストラダムス『予言集』刊行 (フランス)
1558年 – デッラ・ポルタ『自然魔術』出版 
1633年 – ガリレオ・ガリレイの第2回宗教裁判、などなど。

しかしこのアイデア、当時は革新的すぎたのか、日の目を見ることはありませんでした。その後長い間、大試行錯誤が続き、1834年になりようやくズルツベルゲル(Sulzberger)が実用に耐えるロール製粉機の開発に成功しました。とはいえ当時はまだ石臼の方がコストパフォーマンスに優れていたので、普及するには至らず、実用に耐えるヒット商品を生み出したのはウエグマン(Wegman)で1873年のことでした。つまりラメリから300年余りかかってようやく実用化が実現しました。

近代製粉の条件としては、次の3つが挙げられます:
①全自動であること。
②全てロール製粉機を使用していること。
③段階式製粉方法を実践していること。

この内、①全自動式の製粉工場を最初に実現したのは、アメリカの技術者、オリバー・エバンス(Oliver Evans)です。彼は1782年着手し、1785年までにこの工場を完成させました。これが世界で最初に建設された完全自動化の製粉工場です。彼は自動化を実現するために、スクリューコンベアー、バケット・エレベーター、そしてダスト・シュートなどを考案しました。そして注目すべきは、これは製粉産業だけでなく、すべての産業を通して最初に無人化された工場だということです。

彼はこの工場の詳細を記述した「製粉大工と粉屋の手引き」という本を、1795年に著しました。これは当時の製粉産業のバイブルともいえるもので、フランス語やドイツ語にも翻訳されました。そして版を重ね、1850年には第13版が発刊されたことからも、これがいかにベストセラーであったかがわかります。次は彼の設計した完全自動化の製粉工場の断面図です。