製麺の基礎(手打ちうどんの復習)

不快指数の上がる夏においては、素麺の清涼感に勝るものはありません。さて素麺は大きく分けて、手のべ素麺と機械素麺の2種類があります。どちらも含まれる水分量に着目すれば、乾麺になりますが、普通は乾麺といえば後者を指すことが多く、前者はそのまま手のべ素麺といいます。前者は、小麦粉生地を手作業で引っ張り続けながら一本の細長い麺に仕上げて乾燥させます。最終的には元の生地の1/10000の細さになり、この作業によって生まれる手のべ素麺独自のつるつる感は絶品です。

一方、機械素麺はロール機を使い、生地を延ばす方式で、大量生産が可能です。一般には乾麺は廉価で、手のべ素麺は高級というイメージがありますが、両者それぞれの特長があり、乾麺(機械麺)の方が好きだという方も多くいます。ここでは改めて乾麺の製造工程を説明したいと思います。ただ乾麺と言っても原料は小麦粉ですので、その製造方法の原理原則は手打ちうどんと何ら変わりません。そこで復習の意味も兼ねて、手打ちうどんのポイントを手短にまとめてみました。尚、手打ちうどんの作り方の詳細、例えば塩水の量などは弊社サイト「さぬきうどんの作り方」をご参照ください。

水回し(混合)

最初は小麦粉と塩水とを均一に混ぜあわせますが、「言うは易く行うは難し」です。元々小麦粉と水との相性はあまり良くないので、この作業は意識してやらないとうまくいきません。多分この「水回し」工程が一番難しく、そして軽んじられている工程でないかと思います。水回しの重要性が余り意識されない一つの理由は、うまくいってもいかなくても、後で捏ねた団子(小麦粉生地)は同じように見えるからだと考えます

水回しがうまく完了すると、全体が小さな塊が集まった「そぼろ状」になります。そぼろ状とは、小麦粉と水が混ざり合っただけの状態を言います。ただ現実にはどんなに丁寧に水回しをしても、僅かですが「捏ねる」という動作が入ってしまいますが、理想は小麦粉と水を混ぜ合わせるだけです。水回しが完了すると、この状態で15~30分乾燥しないようにして放置すると、毛細管現象によって小麦粉の隅々にまで水分が行き渡り、水回しが完全なものとなります。このそぼろ状態で放置することを、「予備熟成」もしくは「そぼろ熟成」といいます。これは加水量が少ないとき、もしくは気温が低いときに特に有効です。

 

捏練(ねつれん)

水回しが完璧にできれば、後は捏ねるだけです。少量の小麦粉であれば、手作業(つまり手で捏ねるだけ)も可能ですが、普通は生地がまとまった時点で足踏みを行います。手だけだと、力が弱かったり、加圧できない部分ができたりして、均一なグルテン繊維ができないからです。その点足踏みを行うと、全体重が生地にかかるため、踏む動作を繰り返すだけで、充分な「捏練効果」が得られます。暫く踏み続けて、生地がぺっしゃんこになると、生地を重ねあわせて、再度足踏みを行います。この作業を数回続けると、生地が徐々に硬化し、折り曲げたときにヒビ割れが起こりますが、これが足踏み作業終了のひとつの目安です。踏めば踏むほどコシがでて、おいしいうどんになるだろうという気持ちはわかりますが、「過ぎたるは及ばざるが如し」です。

 

熟成

充分に捏ねた生地を放置(熟成)することで、小麦粉中のグルテニンとグリアジンからグルテンが作られます。ここで注意すべきは、気温が低いと(10℃以下)何時間放置しても熟成しないので、適温で熟成することが重要です。


乾麺の製造工程

機械製麺① 混捏(こんねつ)工程

混合(水合わせ)と捏練(捏ねること)を併せて、混捏といいます。純手打ちであれば、すべて手作業でやりますが、最近ではそういううどん屋さんはかなり少数派です。麺棒で延ばしている良心的なうどん屋さんでも、ミキサーくらいは使用しているところが多いようです。それでここでは、うどん屋さんでよく見かける2種類のミキサーを紹介いたします。

①ピン式ミキサー(混合が主体)

歴史的には一番古いタイプのミキサーです。回転軸から直線状のピンが突き出ているので、ピン式もしくはピンタイプのミキサーと呼ばれています。60~70rpm(回転/分)で回転する中速タイプです。一昔前、さぬきでは標準的な形式であった、うどん店を兼ねた製麺所では、大抵このタイプのミキサーがありました。小麦粉を入れたミキサーのスイッチを入れると回転を始めるので、そこへ塩水を少しずつ注入します。ポイントは一度に入れると塩水が均一にならないので、できるだけゆっくりと満遍なくかけることです。

ミキシングが進むと画像のような状態になります。加水率にもよりますが、比較的小さな塊やそぼろが中心となり、大きな塊を形成するまでには至りません。つまりピン式ミキサーはある程度の捏練はできるものの、混合が主体となります。その後はこの状態で暫く放置することにより(そぼろ熟成)、水回しが完全なものとなり、次の捏練(足踏み)工程が生きてきます。

 

②ニーダー式ミキサー(捏練が主体)

そもそもミキサー(mixer)とは、ミックスするもの、つまり混合機のことです。それに対しニーダー(kneader)は捏ねるもの、つまり捏ね機になります。よって本来はミキサーとニーダーとは役割分担が異なる別物なので、ニーダー式ミキサーという表現は不自然で、実際は単にニーダーと呼ぶべきだと思います。ただうどん業界では慣例としてミキサーのことを両方の意味でこれまで使用してきましたので、敢えてこういう呼び方をしました。

ニーダーは、鹿の角のような形状の刃が両端から突き出ていて、これが8~10rpmという低速で回転します。よってこの動作により「捏ねる」つまり「足踏み」の効果が得られます。①ピン式ミキサーと同様、小麦粉を入れ、回転を始めた後、塩水を加えます。ここで注意すべきは、回転数が低速なので、一度に塩水を加えると、ムラができてしまい、塩水のかからなかった部分は当然グルテンができず、その後の作業性に問題を起こすことがあります。よって低速回転故に、塩水の注入には①ピン式ミキサーよりも更に気を遣う必要があります。よっては水回しが完了した状態の生地をここに入れ、捏練するのがベストかも知れません。

①ミキサーと②ニーダーのどちらが機能的に優れているのかと言われても、そもそも本来の役割が、ミキシング(混合)とニーディング(捏練)なので、比較のしようがありません。ただ加水率が47~48%と手打ちに近い「多加水」であれば、いきなり②ニーダーで捏ねても、加水を上手にやればうまくいくと思います。逆に30~40%の「低加水」なら、混合が主体の①ミキサーで処理した後に、別工程で捏練を行うのが良いはずです。特に乾麺などは、一般に低加水になるので、混合主体のミキサーで充分に水回しを行う方が無難かと思います。

尚、ここでは紹介しませんでしたが、①よりも更に高速回転で、小麦粉と塩水を連続的に混合させる、ミキシングに特化したミキサーもあります。機械製麺、特に乾麺製造においては、一度に300kgの小麦粉を捏ねることができる巨大なバッチ式ミキサーもありますが、30~40%という低加水が標準的な現状を考慮すると、こういった連続式のミキサーの方が、水回しがうまくいくので、適しているのではないかと思います。

機械製麺② 複合ロール機(足踏み工程)

乾麺製造における加水率は40%以下と、一般の手打ちうどんと比べるとかなり少ないので、ミキサーからでてきた生地は、大きな塊をではなく、小さな塊を含むそぼろ状になっています。よって次にすべき作業は、バラバラの生地をまとめあげ、これを「粗麺帯」という連続したベルト状の生地にすることです。ただバラバラの状態では、ロールへの食い込みが悪いため、そぼろ状の生地を押し込むようにロールに供給し、粗麺帯を作ります。この粗麺帯は一度に2枚作り、その直後に、この粗麺帯を2枚重ねのサンドイッチにして、ロール機にかけ1枚の麺帯にします。

1枚の粗麺帯では比重も小さく、十分な圧力で生地を締め付けることもできず、また生地密度が不均一であるために、薄く延ばすにつれて、両端が切れたり、部分的に厚みが異なったりして良い生地が得られません。しかし2枚重ねにすることにより、こういった問題は解消され、生地密度が高くなります。このサンドイッチにする作業は、手打ちうどんでは「足踏み作業」に相当し、これによりグルテン組織がほぼできあがります。もちろんこのサンドイッチは2枚重ねよりも3枚以上の方がより大きな効果が得られますが、効率を考えると2枚重ねが一般的のようです。よって粗麺帯をつくり、これを2枚重ねにして、麺帯を作るまでが複合ロール機の役目です。

機械製麺③ 熟成工程

手打ちうどんでは足踏みが完了した生地は、グルテンの伸展性を高めるために熟成させますが、機械製麺ではコンベアを使用します。コンベアと言っても何かするわけではなく、ただ時間稼ぎのためだけにここを通過させ、麺帯の熟成を促します。昔は複合機からでてきた麺帯を、一度巻き取った状態で一定時間熟成させていました。しかしその方法だと、そこで一旦手作業が入り非効率なので、今は熟成コンベアの利用が一般的です。

機械製麺④ 圧延工程

熟成が完了した生地は、圧延ロール機にて圧延されます。この工程は手打ちうどんの麺棒による「延ばし」工程に相当します。一気に延ばすとグルテン組織が破壊されるので、徐々にロール間隙を狭くしながら、最終的な厚さにまで延ばします。うどんは厚く、そうめんは薄く、そして冷麦はその中間になります。一般的な圧延工程では、5台のロール機を使用して徐々に薄くするので、この圧延ロール機は「五列」と呼ばれています。

機械製麺⑤ 切り出し工程

最終的な厚さに圧延された生地は、切り出しロール(もしくは単に「切刃(きりは)」)によってカットされます。この切刃は包丁とは異なり、どちらかというと押し出すようなカンジで麺がでてくるので、角が少し丸くなっています。ときに、「包丁切りの麺の方が、角が立っているのでより高級だ」と意見を耳にします。見た目は確かにそうかも知れませんが、味そのものに対する影響はそれ程ないと思います。尚、うどん、そうめん、冷麦といった麺の種類は、JAS法によりこの切り出しの幅によって決められています

うどんとそうめんの違い >

うどんの切り口 >

機械製麺⑥ 乾燥工程

ここが乾麺特有の乾燥工程です。切り出された直後の麺は、35%程度の水分を含んでいますが、乾燥することにより最終的にはうどんで14.5%、素麺・冷麦で14%程度まで水分を下げてやります。乾燥させることで常温での長期保存が可能になり、これにより乾麺は日本の伝統的そして代表的な保存食になりました。ただ一口に乾燥と言っても、ただ風を当てて乾かせば良いといった単純なものではなく、ある程度の技術が必要で、以下簡単にその乾燥方法を説明いたします。

今、乾燥する前のそうめんやうどんなどの生麺があるとします。
このときこの生麺に含まれる水分の増減が起こらない環境湿度のことを、「平衡湿度」と言います。よって麺に含まれる水分が多いときは、周囲の湿度が高くても麺は乾燥するので、平衡湿度は高くなります。
つまり最初は麺の水分は多いので平衡湿度は高く、乾燥が進むにつれ、平衡湿度は低くなります。また麺に含まれる水分が同じであっても、食塩が多く含まれているときは乾きにくくなるので、平衡湿度は低くなります。

当然のことですが、乾燥は麺の表面から始まります。表面が乾燥すると、内部との水分差が生じるので、内部の水分が表面に移動しますが、このことを「拡散」と言います。乾燥が早過ぎると、表面の乾燥スピードが拡散スピードよりも速くなり、表面と内部との水分差が大きくなります。すると形状が反り返ったり、内部応力に歪ができ麺が割れたりします。また見た目はうまく乾燥できたように見えても、実際にゆでてみると割れてしまうといったことも起きてしまいます。

よって最初は急激に乾燥しても大丈夫ですが、その内に徐々に乾燥スピードを落とし、表面の乾燥スピードが拡散スピードを超えないようにすることが重要です。特にうどんの場合は、表面から中心までの距離が大きいので、水分格差が大きくなり易く、それだけ乾燥が難しくなります。一般には乾燥室を3室用意し、#1では急速に乾燥し、#2ではゆっくりと乾燥し、#3では更にスピードを落とし最終的な仕上げ乾燥を行います。乾燥ラインは総計で500mにもなり、乾麺はその全行程を半日から1日かけてゆっくりと回って、乾燥を終了します。

機械製麺⑦ 裁断工程

乾燥が終了した乾麺は、一定量をまとめてカットされますが、現在この裁断工程はほとんど自動化されています。乾麺の長さは8寸(24cm)もしくは6寸(18cm)が多く、この辺りが箸で持ち上げ易い長さなのかも知れません。

機械製麺⑧ 結束工程

乾麺の基本的な商品規格としては、250gバラ袋(そのままの状態で袋詰したもの)、もしくは100gに結束したものが3束入った300g袋入が標準的で、弊社でもそういった商品を製造しています。乾麺はゆでると重量が約3倍、つまり100gの乾麺をゆでると300gになります。量販店で販売されているチルドのうどん1玉が200gなので、大体どのくらいか想像してみてください。よく袋に3人前とか書いていますが、その一人前は80g~100gを基準にしていることが多く、その通りにゆでて満足される方は、あまり多くないと思います。

機械製麺⑨ 包装・計量・梱包工程

包装された乾麺は、計量されます。重量が少ないものは不可となります。また同時に金属探知機により、不純物が入ってないかどうかも検査されます。そして最終的に問題ない製品が梱包・出荷されます。

乾麺の標準的な賞味期間は1年ですが、高温多湿を避けた良い保存環境であれば、何年経過しても大丈夫です。ただ乾麺の特徴として、時間が経過するほど食感が締まってくる傾向にあります。

よって、うどんなどの太い商品は賞味期間内でも早く調理する方がもっちりした食感がするし、逆に細いそうめんは製造後ある程度時間を経過した方が「コシコシ」とした歯切れの良い食感がします。

塩の働き、乾燥の抑制

うどんづくりには、塩水を使用します。塩を入れる理由は、いくつもありますが、乾麺に関連して重要なのは、「乾燥の抑制」です。もし乾麺を製造するときに、小麦粉を塩水ではなく、真水で練ったとすると、その乾燥作業はとても難しいものになります。それを理解するために、乾麺の乾燥工程を簡単に説明いたします。棒に吊るされた乾麺は、乾燥室の中をグルグルと一周する間に、だんだんと乾燥されるわけですが、そのとき水分は均一に蒸発するわけではありません。

吊るされた麺は、まず空気に触れている周辺部分の水分が蒸発します。
すると周辺部分の水分が減少するのに対し、中心部分は元の状態のままです。
つまり内側と外側では水分格差が生じるので、水分は中心から周辺部分に向かって移動します。すると周辺部分の水分が再び多くなって、この水分は表面から蒸発します。そしてこの作業は、最終的に乾麺の適正水分である14%前後になるまで続けられます。言い換えると乾麺の乾燥は、常に表面部分の水分の蒸発によって行われ、表面部分の水分がなくなると、中心部分から補充され、最終的に乾燥が終了するわけです。

このように乾燥の原理そのものは至って簡単ですが、実際の乾燥工程はそれほど簡単ではありません。理由は乾燥スピードの問題です。乾燥が速過ぎると、表面から蒸発するスピードに、内側からの水分の移動スピードが追いつかず、乾麺内部での水分格差が大きくなってしまいます。すると麺が反り返り、この水分格差が大きくなりすぎると、乾麺特有の「縦割れ」という現象を起こします。これは一見乾燥がうまくいったように見えても、実際にゆでた段階で、縦割れが起きることをいいます。また乾燥直後にゆでて問題がなくても、1~2週間経過したものをゆでて、縦割れが起こることもあるので、なかなか厄介です。もちろんこうなってしまうと、商品価値がなくなることは言うまでもありません。

 

さてここで塩水の登場です。塩水は真水と比較して水分の蒸発スピードが遅いので、麺の表面からの蒸発スピードも遅くなります。つまり乾燥室内の湿度が急に下がったとき、真水で練った生地であれば、表面から急激に蒸発するために内部との水分格差が大きくなりますが、塩水で練った生地では、その蒸発スピードが緩慢になるため水分格差が大きくならず、よって内部からの水分の移動が表面の蒸発スピードに間に合います。よって多少乾燥室内の湿度が急激に変化しても、塩水がある種の緩衝材となって、乾燥がうまくいくのです。

ではなぜ塩水は真水より蒸発スピードが遅いのか?以下、受け売りですが簡単に説明いたします。コップに入れた水は、一晩放置するとその水面は下がります。これは動き回っている水分子の一部がコップから飛び出してしまい、その分その蒸発するからです。つまり水は沸騰していない常温でも、少しは蒸発しています。そしてこの表面から飛び出る水分子の飛び出す力を「蒸気圧」といいます。つまり塩水よりも真水の蒸気圧が大きいので、真水の方が蒸発しやすく、逆に塩水は蒸発しにくいことになります。海水に浸かった衣類はべとべとして気持ち悪く、乾きにくいですが、これは塩水の蒸気圧が小さいためです。

そしてこの蒸気圧は、水に溶けている物質(溶質)の多いほど、小さくなります。つまり5%食塩水よりも10%食塩水の方が、蒸気圧は小さくなり、よって蒸発しにくくなります。このとき溶質は、食塩でも砂糖でも何でもよく、とにかく「濃度が濃くなればなるほど」、蒸気圧が小さくなり、蒸発しにくくなります。では10%の砂糖水と10%の塩水は同じ蒸気圧かといえば、そうではなく塩水の方が蒸気圧は小さくなります。理由は、砂糖の分子は食塩のそれよりずっと大きいので、同じ10gでもその中に含まれる分子の数は、食塩の方が砂糖よりもずっと多くなるからです。

つまり人口密度は、食塩10gの方がずっと大きく、よって蒸気圧が小さくなり、蒸発しにくくなります。厳密にいうと蒸気圧の減少は、溶質の濃度、つまり溶けている溶質の分子の個数に比例することになります。そして更に言うと、少し込み入った話で恐縮ですが、特に食塩の場合は、水の中ではNa+とCl-というイオンに分離しているので、実際の濃度は、単純に考えるとNaClの2倍になり、その分さらに蒸気圧は小さくなり、よってそれだけ水は蒸発しにくくなります。