うどんも他の食品同様、風味・食感・食味に分けて考える事ができます。
ここでは私たちなりに、うどんについて想うことをまとめてみました。

一般的な味の評価

普段私たちは食品を口にしたとき、直感的に旨いとかマズイなどと感じますが、一般に食品の味とは、匂い、食感、そして味の三つに分けて考えることができます。また味に関しては、更に五基本味というのがあって、これには甘味、塩味、酸味、苦味、そして旨味(うまみ)があります。普通、5つの味を挙げろといわれると、五番目としては旨味ではなく、辛味といいたくなりますが、これは味細胞で感じる味ではなくて、痛覚を刺激する味なので、残念ながら五基本味からは外れるのです。

この最後の旨味というのは、少しややこしい味で、人種、地域、というより、育った食生活環境によって感じ方が異なります。例えばアメリカ人はあの昆布とかしいたけなどの出汁など少し複雑な味に対しては、甘い、魚臭い、苦い、すっぱいなど、我々日本人とはかなりずれた感じ方をするという結果もあります。基本的な味覚機能は3歳までに形成されると言われていますが、アメリカの食生活には「旨味」に触れる機会がないからかもしれません。

アメリカ社会は、生活の快適さでは世界の最先端をいっていますが、こと食事に関しては我々日本人には物足りなさを感じます。というか、はっきりいうと、おいしくないと感じる場合が多く、味付けは極めて単純で、直線的です。ケーキは歯が痛くなるほどに甘く、フライドポテトは油たっぷりで塩辛く(でもなかなかうまい)、そしてコーヒーは色がついて、ただ苦いだけです。つまり、直球ばかりでもう少し変化球がほしいところですが、多くはそれで、充分においしいと感じ、満足しています。逆にアメリカ人にしてみたら、我々日本人の嗜好こそ、奇妙なものに映っているのかもしれません。話がそれてしまいましたが、うどんについてこれらの味の要素を考えてみましょう。

うどんの風味

うどんで匂いといえば、小麦の風味になります。挽きたての小麦粉でうどんを打つと、小麦の風味がよくわかりますが、逆にどんなに良い小麦粉でも古くなると、消えてなくなります。小麦粉の匂いというのは、コーヒーや蕎麦にくらべるとそんなに目立ちませんが、挽きたての小麦粉には小麦の風味を強く感じることができます。実際、製粉工場を訪れた人は、必ず異口同音に「わあ、小麦粉の匂いがする。」といいます。そして初めて小麦粉の匂いに気づく方も少なくありません。

小麦粉の風味に一番影響するのは鮮度ですが、等級によっても違います。一般には上級粉になる程、風味は弱くなる傾向にあります。この理由は上級粉は小麦の中心部分の胚乳が主な構成要素になるからです。同じ胚乳でも、外皮に近づくほど風味は増し、味は濃くなりますが、逆に色はくすんでくるので、その兼ね合いがポイントです。現在うどん用として使用される小麦粉の歩留りは50~60%のものが大部分です。つまり、小麦の中心部分の50~60%だけがうどんに加工されるわけです。昔のうどんは風味が強かったとの声をよく耳にしますが、当時は70%歩留りの小麦粉がうどん用として使われていたので、考えてみると確かにその通りだった筈なのです。

 

うどんの食感

次にうどんの食感ですが、食感とは今風の言葉でいうと、テクスチャー(texture)になります。うどんを口に入れたときの舌ざわり、喉ごし、コシ、つまり噛んだときの歯ごたえなどのことです。表面がつるつるしている、ざらざらしているなど色々なうどんがありますが、一般には特等粉の方が、きめが細かく、なめらかなうどんができます。現在はつるつるしているうどんが好まれる傾向にありますが、個人的には、昔風の朴訥としたうどんの方が、つゆの絡みがよくて好きです。
また噛んだときに、もっちりとした感じ、またはもちもち感のするうどんは、でんぷん質にアミロースよりもアミロペクチンを多く含んだ内麦粉を使用したものに多く、これが内麦粉の特徴にもなっています。小麦粉にタピオカでんぷんを入れても、これに近い食感はでますが、実際にはゴムのようにくちゃくちゃした感じに例える人もいます。

食感の中で一番重要なのは、いわゆるうどんのコシでしょう。ただ最近は硬いだけのうどんとか、充分にゆであがってないうどんを、コシがあると勘違いしているケースもあり、少し残念な気もします。コシとは、詳しくいうと次のようになります。茹であげ直後のうどんは、中心部分の水分が約50%であるのに対し、外側部分は約80%になっています。この水分の差により、最初噛んだときには、軟らかいけれど、内側は硬く、その差がうどんのコシとなって感じるわけです。別の言い方をすれば、軟らかいけれども噛み切ろうとすると力がいるうどん、ということになります。これがよくいわれる、例の「軟らかい中にもコシがある。」という一見矛盾したさぬきうどん独特の表現方法なのです。そして上手なうどん屋さんは、どうやって軟らかく、そしてコシの強いうどんをつくろうかと、それに苦心しているのです。

うどん屋さんを悩ましている一番大きな問題は、このコシが茹であげ直後から、時間とともになくなるということです。どんなに上手につくられたうどんでも、ゆでて30分も経つと、ゆであげ直後のコシはなくなります。これは時間が経つにつれ、外側から内側へ水分の移動が起こり、全体として水分が均一化されるためです。つまり、どこも硬さ、というか軟らかさが同じなので、歯ごたえが全然ないわけです。そしてこの状態のことを一般には、「うどんがのびた。」といいます。専門店のゆであげ直後のうどんとスーパーで売っているものとの一番の違いはここにあるのです。

また、時間が経過することの弊害は他にもあります。皆さんも買ってきたゆでうどんを、冷蔵庫に何日も入れておいた後で、暖め直して食べようとしたとき、うどんがポロポロと折れたり、べとついたり、また水っぽくなっていた経験があると思います。これは小麦でんぷんが劣化したためにおこる現象です。少し話が面倒になりますが、ゆであがったうどんでは、小麦のでんぷん分子には水分子が均一に分散しています。ところが冷たいところにおいていると、でんぷん分子同士がくっつきやすくなり、結果として水分子がでんぷんから離れてしまいます。つまり離水してしまうのです。

この現象をでんぷんの老化といい、この老化は2℃~4℃の温度帯が最も進みやすくなります。つまり冷蔵庫のチルドルームなどはゆでうどんにとってはあまりいい環境ではないということになります。この状態の変化を図であらわすと右のようになります。
このように私たちが普段何気なく感じているゆでうどんの品質劣化も実は、二つの種類があり、これをまとめると次のようになります。

(1) ゆでた後、短時間に起こる劣化、つまり水分の均一化によるうどんがのびた状態
(2) ゆでた後、長時間かけて起こる、離水作用による、でんぷんの品質劣化

このような食感の劣化は、うどんにとっては致命的です。繰り返すまでもありませんが、おいしいうどんを食べるには、ゆでた後できるだけ早く、できれば15分以内にたべるのが理想です。うどん屋さんの中にはゆでて15分経過すると、棄ててしまうところもあります。もったいない気もしますが、常に最高のコシを提供したいというご主人の気持ちの現れです。

 

うどんの味

うどんの味とはなんでしょう?うどん自体には味が無いという人がいます。また、くどくなったり、飽きたりするので味はない方がいいという人もいます。これはどちらも、正しくないと思います。本当においしいうどんとは、口に入れて噛んだ後、一呼吸遅れて小麦の風味というか、ほんのりとした甘みが口の中に拡がるはずなのです。そしてこのほんのりとした甘みこそがうどんの本当の味、おいしさだと思います。これはコシの強いうどん、軟らかいうどんに関係ありません。コシが強いうどんでも美味しいものは美味しい、そして軟らかいうどんも同様です。いろいろな種類の美味しいうどんがあるのです。

「甘み」というのは、うどんに限らず全てのおいしい食べ物に共通するキーワードだと思います。刺身、かに、うに、ホタテ、イカなどなど、おいしいものには全てその食材、素材特有の甘みがあり、それがその食材独自のおいしさとなっているのです。どんなに上手に、またきれいにつくられたものでも、素材の甘みがなければ、飽きてしまいます。食べていて、このうどんはおいしいのかな、それともおいしくないのかなと考え始めたら、それはもうおいしくないし、逆においしいうどんは無意識に箸が進んでいるはずです。そして、うどんのもつ甘みとは、小麦特有のほんのりとした甘みなのです。

うどんは噛まずに、喉ごしで食べるというのもよく耳にします。これも正しくありません。実際、みなさん、うどんを噛まずにそのまま飲み込めるかどうか試してください。必ず、噛んで、うどんを味わっているはずです。また、つゆと一緒に食べるので、うどんに味は必要ないと考えている人もいるようですが、それではやはりうどんが物足りないと感じるはずです。

ときどき、「あそこのうどんは、うどんとつゆとの絡みがよくない。」、「うどんにだしがのらない」、とか「うどんとつゆが分離している。」などの感想を聞くことがあります。最初は、だしが上手にとれてないとか、うどんがつるつるしているので、つゆがうまく絡まない、と単純に考えていました。しかし、よくよく考えてみると、本当にうどん自身に味がないから、と思うようになったのは最近のことです。

 

うどんの評価

食品の評価には味に加えて、外観も重要な要素で、これはうどんも同様です。うどんはただ単に、白いだけではありません。淡いクリーム色をしているものもあります。また、同じ白でも、鮮やかな白、くすんだ白、ぼやけて白いのか黒いのかよくわからないような白、などなど見比べてみると様々な色が、あることがわかります。また、てかてか光る、艶のあるうどんがあるかと思えば、ゆであげ直後でも、ゆでのびしたように見える、精彩の無いものもあります。

見た目は味に関係ないと思うかもしれませんが、おいしく見えるうどんには、それなりの理由があります。でんぷん組織を壊さないように注意して製粉した、挽きたての小麦粉でうどんをつくると、淡いクリーム色、または小麦色になります。また、艶のあるうどんは、ぷりぷりしていて、適度な弾力、そしてコシがあります。おいしいうどんは、それ自身食欲をそそる顔つきをしています。

ところで、うどんで一番重要な要素とはなんでしょう。きっと多くの人はうどんのコシと答えることでしょう。コシは確かに重要です。しかし、それ以上に大切なものはうどんの味、つまり「甘み」だと思います。さぬきで専門店を食べ歩くと、コシのあるうどんはすぐに見つかります。しかし、本当に「甘み」のあるうどんにはなかなか巡りあえません。そして不思議なことに、というか当然というか、「甘み」のあるうどんとは、ガチガチのコシのあるうどんではなく、どちらかといえば適度な軟らかさとコシを兼ね備えたうどんに、よくあるような気がします。これはうどんを作る際の加水率、熟成時間に大きく影響されるからです。

スーパーのうどんというのは、確かにゆでてから時間が経過しているので、コシという点では専門店に一歩劣るのは事実です。しかし、なかにはうまく熟成して丁寧につくられたうどんの中には、この「甘み」の残っているものを見つけることができます。矛盾した表現になりますが、この点において、ゆであげ直後のうどんよりも、スーパーで買ってきたうどんを温めなおした方がおいしい、ということもあるのです。

うどんのコシ、つまり食感のインパクトの強さに対して、うどんの「甘味」は地味な存在なので、どうしても影が薄くなり、見過ごされがちになります。特に、一週間に一度とか、たまにしかうどんを食べない場合は、特にそうです。しかし、食べる回数を重ねるにつれて、うどんの味というものの重要さに気づいてくると思います。

 

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