#052 うどんはアメリカ社会に通用するか?

このところ日本料理は、欧米諸国ではすっかり人気が定着したと言われています。今はともかく、昔の日本人はみなスマートだったので、日本食はとっても健康的というイメージがあります。実際、ハンバーガーとかフライドポテトよりも、うどんとかそばの方が、脂肪分も少ないのでいいような気がします。特に、豆腐とか納豆なんかは、自然食品とか健康食品として認知され、今やは豆腐は、一般の食料品として、どこのスーパーにでも置いてあります。

寿司、てんぷら、刺身は、どこの日本レストランでも定番メニューとなり、牛丼は、日本料理かどうかはさておき、ビーフボウル (Beef Boul) として支持を拡大しています。で、不思議に思うのは、うどん、そば、ラーメンなどの麺類は日本では圧倒的に普及しているのに、なんで海外ではほとんど食べられていないのかという点。空港では、うどん、ラーメン、そばなどがメニューにありますが、食べてるのは大抵日本人で、向こうの人が、うどんやラーメンをおいしそうに啜っているのを見た記憶は、ないなあ

以下すべて独断なので、真実である保証はありません。日本ではどう考えても、寿司よりもうどんを食べてる回数の方が多い(さぬきだけか?)。カップ麺は、向こうのスーパーで売っていますが、あれはどうみてもラーメンというよりも、スープとしての位置づけです。「なぜだろう?」と考えているうちに、「アメリカ人は熱い食品を食べない、というか物理的に食べることができない」という結論に達しました。

ずっと前、知り合いの S というアメリカ人と一緒にラーメンを食べることになりました。こちらは順調に消化しているのに、 S はいつまでたってもレンゲを「ふぅ~ふぅ~」やってるばかりで、一向に進まないんです。「なんやっとんな?」と聞いたら、「熱いから冷ましてる」との答。それは、見ればわかるけれど、あまりの遅さに呆然。今にして思えば、常温まで冷ましていたので、あれほど時間がかかったのか?ネコが熱いものを食べるときに、近づいては離れ、手でひっくり返しては、「あっちっち」といった仕草をしますけど、正にあのカンジで、麺を口元までは持っていくんですけど、いつまでたっても埒が明かないんです。

更に踏み込んで、「なんで食べることができないんだろう」と思って、観察していると、どうも口の中に一口分をきちんと放り込んで「もごもご」やっているんです。なんのためにそうするかといえば、音を立てないで食べようとすれば、どうしてもそういう風になってしまうようなんです。早い話、「ずるずる」と音をたてて食べる習慣がなく、そこが大問題なんです。「ずるずる」と音をたてて食べることをスラープ( slurp )というそうですが、それが動物的な食べ方を連想させるので、精神的に抵抗があるようです。早い話、下品であると。だから、「ずるずる」と食べる練習をしないし、結果としていつまでたっても、「ずるずる」と食べることができないのです。

でも、うどんとかラーメンは、時間が経てば伸びて、水脹れし、うかうかしていると丼から溢れんばかりになります。それに何より、冷めてしまえば折角の味が台無しです。でもね、熱いうちに食べようとすれば、「ずるずる」しないと、唇を火傷してしまいます。つまり、「ずるずる」することによって、麺が高速で口の中に移動し、また口内の特定の場所に熱い麺が直接、接することもないので、火傷しないのです。言い換えると、「ずるずる」は熱い麺を、火傷しないで食べることができる唯一の方法かも知れません。一方、アメリカの人たちは、「ずるずる」することにとっても心理的抵抗があります。だからこの矛盾が解決されない限り、熱い麺はアメリカ社会には普及しないと思います。

しかしこの前、東京のあるラーメン店で衝撃的なというか異様な光景を目にしました。外国の方が、ほんの少し首を傾げて、箸を器用に操り、「ずるずる」とラーメンをおいしそうに食べているんですこれを見てからは、信念が少しぐらつき、ひょっとしたら、うどん、ラーメンがアメリカ大陸に本格的に上陸する日がくるかもしれないと、思うようになりました。