#080 ゆでる前のうどんは、時間が経つとなぜ黒くなるのか?

どこのどなたが忘れましたが次の内容のメールをいただきました。

手打ちうどんを作り、ゆでる前の状態で、冷蔵庫で保存していると、4日程で色がくすんできます。なぜでしょう?

 

確かに、ゆでる前のうどんを保存すると、時間とともに変色、つまりだんだんとくすんできます。一晩くらいではどってことありませんが、一昼夜を経過したあたりから気になり始め、4日もすると一目瞭然、「わぁ、黒いなあ!」と感じます。味は良くても、くすんでいると何となく気になります。見た目も味のうちです。

この原因は、小麦粉の中に含まれているポリフェノール・オキシターゼ(Polyphenol Oxidases、以下PPO)という酸化酵素が空気中の酸素にふれて活性化するためです。簡単に言うと、生地が酸化して変色するのです。もっと詳しく知りたいという方は、例えば「小麦の科学」(長尾精一編、朝倉書店1995年刊、81&103頁)などをご覧ください。

リンゴを切ったまま放置しておくと、果肉が空気に触れて変色しますが、これも同じ理屈です。これについては例えばりんごの変色をごらんください。では、このうどんの変色を防ぐには、どんな方法があるか考えてみたところ、ざっと3つほど:
①空気を遮断して保存する

PPOが活性化するためには酸素が必要なので、酸素を遮断すればPPOが作用せず、したがって変色を抑えることができます。具体的にはガスバリアー性の強い(密閉性の高い)袋に、エージレス(脱酸素剤)と一緒に保存することでかなりの効果が得られます。実際、「打ちたて」がウリの生うどんは、ガスバリアー性の袋とエージレスとの組合せで、流通、販売されています。温度管理さえしっかりすれば、これで一週間程度は大丈夫です。ただこの方法は、設備のない家庭ではムリです。普通のポリ袋に入れて紐で「ぎゅっ」と縛ったくらいでは、あまり効果は期待できません。

② 冷凍保存する

家庭での有効な方法は、フリーザーに放り込んでやることです。一旦凍ってしまうと、そこで色の劣化は止まります。一ヶ月程度はへっちゃらで保存することができるので、後は好きなときに取り出し、ゆでてやれば、美味しい釜揚げうどんが食べられます。ただし必ず一回分のゆでる分量ずつ分けて冷凍してください。まとめて冷凍すると、後で半分だけゆでるといったことはできなくなります(ちょっとくどい?)。

あっ、それと直接は関係ありませんが、ゆでたうどんは冷凍しないでくださいね。市販の冷凍うどんは、急速冷凍されているので、湯でたての食感が再現できます。家庭のフリーザーではなかなかうまくできません。

③グレードの高い小麦粉を使用する

色の劣化の原因となるPPOは、小麦の胚乳部よりも表皮部分に集中的に分布しています。一般にグレードの高い小麦粉は、胚乳の中心部分が主体ですが、低くなるほど表皮の欠片が小麦粉の中に多く入ってくるようになります。よってゆであがりのうどんの色は、グレードの高い小麦粉ほど、冴えた淡い小麦色になります。また、PPOが少ないだけ時間に対する色の劣化も、少なくなります。でも、うどんの味については、特級粉よりも胚乳部分をバランスよくとりだした小麦粉の方が良いような気が、個人的にはします。

で、結論ですが、家庭でつくった手打ちうどんの色の劣化を防ぐとすれば、②、③あたりが現実的な方法になります。ただ、保存できるといっても、打ちたてのうどんも、やはり生鮮食品です。切ってうどんにした後は、できるだけ早くゆでる方が、「ぷりぷり」としたコシのある食感が楽しめるし、味もいいのは間違いありません。