#095 小麦の自給率とその価格
お米は、これまでずっと自給率100%の農作物でしたが、この理由は日本が農業分野で、保護政策をとってきたからです。そもそも地形的に不利な日本は、1ドル=360円の固定相場制の時代にさえ、農業は自立できないと言われてきました。だから、「円」の価値が3倍に上がった現在においては、どんなに頑張っても自由化になれば、ひとたまりもないことは明らかです。
日本は戦後、皆一生懸命働き、高度成長を遂げましたが、一方で「工業製品はいくらでも輸出するのに、自分に不利な農産物だけは保護するというのでは、あまりにも虫が良すぎるではないか」という国際世論の批判を受けました。で、その結果、国際間の農業の取り決めの中で、少しずつ市場を開放することが決まりました。これによって、現在では本当は必要ではないのだけれど、外国から少しずつ、お米を輸入しています。
じゃあ、小麦はどうかといえば、事情は同様で、生産コストが諸外国に比べて数倍の日本では、どうがんばっても自立できません。ただ小麦はお米ほど、聖域視されてなかったこと、また食の多様化、洋風化により需要が伸びたこともあり、ずっと以前から輸入され続けてきました。では、これまで日本はどのくらいの小麦を輸入してきたか想像してみてください。結果は次のグラフの通りです。低いグラフが内麦(国産小麦)、真ん中が外麦(輸入小麦)、そして青色が2つの合計、つまり全消費量になります。
これを簡単にまとめると:
① これまで半永久的に、日本は小麦を輸入し続けてきた。
②驚くべきことに、50年以上前から内麦より外麦の方が多く、その差は小麦の消費量が増えるほど大きくなっている。
③現在の小麦の自給率は、10%余り。
以下、これらの補足をします。現在、日本の主要輸入国である、アメリカ、カナダ、オーストラリアでの小麦価格、いわゆる国際価格は、1トン当たり、3万円台であるのに対し、内麦は15万円程度と、4倍以上の開きがあります。で、これをこのままの価格で販売すると、内麦はいくら人気があっても、ほとんど売れません。内麦には一部、熱烈な愛好者がいるのは事実ですが、全体からみれば少数派で、これだけの価格差ハンディを克服するだけの力はありません。
で、現状はどうやっているかというと、実質的には農水省が間に入って、これらの価格調整をしています。つまり、外麦は5万円/㌧で製粉会社に販売すれば利益がでます。逆に内麦は、農水省が15万円/㌧で農家から買ったのを製粉会社に4万円/㌧程度で販売しています。つまり、外麦を売ることで少し利益がでる一方、内麦の方は大幅な逆ざやになっています。でも絶対量は外麦の方がずっと多いので、全体としては利益と損益がだいたい相殺するような感じでこれまでやってきました。
言い換えると、「小麦の問題は、小麦の世界の中で解決しましょう」という考えで、これをコスト・プール方式といいます。ただ最近の穀物価格の上昇、また内麦の生産量の増大により、この方式は破綻しつつあり、現在新しい枠組み作りが進められています。
話は戻りますが、注目すべきは、上記の外麦5万円と内麦4万円という価格設定は、市場原理によってではなく、人為的に決められた点です。このとき考慮された条件は主として二つあります。一つは、今説明した、外麦の売却益で、内麦の売却差損を補う必要があること。そしてもう一つは、外麦の方が高く設定されたこと。最初はいいとして、二番目の外麦の方が高く設定されたことに対し、「なんで?」と思う方がいるかもしれません。
もし、外麦5万円、内麦6万円と、内麦の方が高く設定されたらどうなるか?多分、内麦の多くは売れ残ります。理由はいくつかあります。まず内麦は外麦に比べ、粒が小さいので、製粉歩留りが良くない、つまり同じ量の小麦からとれる小麦粉の量が少ない。また、色がくすんでいるので、うどんにしたときに色が冴えない。そして、低たんぱく傾向にあるので、製麺適性が少し劣るといった点が、内麦が低く評価される理由です。
繰り返しますが、一部、内麦が高く評価されているのは事実ですが、これは全体から考えると限定的で、小麦の価格に影響するほどではありません。こういった条件を加味すると、どうしても外麦の方が、高く価格設定されてしまうのです。