#096 最新の世界穀物事情
先日、ある穀物商社の方から、現在の穀物事情についての話をお聞きしました。最近は、ニュースでもよく取り上げられるので、みなさんもうすうすは「なんとなくやばいぞ」という雰囲気は感じ取っているかもしれません。実際、とうもろこし、小麦などの穀物相場は急ピッチで上昇しています。直接の原因は、バイオエタノール燃料用のとうもろこし需要が増えたためですが、原因はそれだけではありません。ここでは最新の穀物状況をまとめてみました。
まず、われわれ業界の関心事である、小麦の生産量、消費量の資料からどうぞ。ここでは紹介しませんが、他の穀物事情は、大体、小麦と似たり寄ったりです。で、ここ10年位の傾向を見ると、黄色線が赤色線の上にある年が多いのがわかります。つまり、10年うち8回は、消費が生産を上回っています。家計に喩えると、収入より支出が多いので、貯金はどんどん減っていきます、ということは小麦の在庫は年々減少します。
これを表したのが、次の表です。青の棒グラフは、毎年の小麦在庫、つまり貯金にあたりますが、ここ10年は減り続けています。また、赤の折れ線グラフは小麦の在庫率を表していますが、これも減り続け、直近では20%しかなく、このグラフの中では最低水準となっています。普通の人なら、これを見て、「小麦ってだんだん在庫が減っているので、少し買っておいた方がいいかな」、とか「小麦がなくなると困るな」、とか思うので、これが小麦価格上昇の一因になっています。
でも中には、「これは一時的な傾向ではないのか。そのうち農業の分野でも技術革新がおこり、好きなだけ食糧が生産できるようになるだろう」と楽観的に考える人もいます。でも「人口の爆発的増加に、生産が追いつかないのではないか」と、レスター・ブラウン先生のように悲観的に考える人もいます。で、お話を聞いた商社の方の考えは、どちらかというと残念ながら後者に近く、現時点での予想としては、この緊迫した需給バランスは簡単には解消されそうにありません。その理由はざっと次のようなかんじ:
① 穀物の増産が、人口増に追いつかない
あまり言いたくはありませんが、確か小学校の社会で習った、当時の世界人口は32億人だったとの記憶があります。それが今は66億人と2倍以上になっているので、穀物需給がひっ迫するのも無理ありません。
② 温暖化がもたらす、天候不順による収量の低下
オーストラリアは昨年大干ばつにあい、収量は前年の2500万㌧→1000万㌧と半分以下になりました。全世界でとれる小麦は、5億8000万㌧なので、これからすると大した数字ではありませんが、世界各地の穀倉地帯がこうなる可能性があります。増収はは容易ではありませんが、自然災害で収量が大きく落ち込むのは簡単です。人口が少ないときは、生産余力があるので増産が可能ですが、フル生産に近い状態になった現在では容易ではありません。
③バイオエタノール需要
二酸化炭素削減には賛成ですが、なんで穀物需給がひっ迫しているこの時期にバイオエタノールが降ってわいたのか理解に苦しみます。これで農家は、とうもろこしの増産に走り、結果として小麦など他の穀物の作付けが減ります。当然、価格はあがります。
④食生活の変化
食生活の変化も、穀物需給を圧迫します。日本は昔、穀物中心の食生活が中心でしたが、豊かになるにつれ、穀物→肉への転換が進みました。現在の発展途上国も、このような経過をたどると考えられます。社会が豊かになると、同じ人口を養うとしても、必要な食物は、穀物換算するとずっと多くなります。理由は、畜産物1kgの生産に必要な穀物量は、牛肉11kg、豚肉7kg、鶏肉4kg、鶏卵3kg、つまり飼育するのに時間がかかるほど、穀物量が多くなるからです(日本の飼養方法を基にしたとうもろこし換算)。
また、大豆油1kg生産するにも、大豆は5kgが必要です。だから、植物油や家畜物を増産するために、大豆、菜種などの作付けが近年急増し、私たちは、直接、また間接的にますます穀物を消費するようになりました。余談ですが、豆腐は今でこそ、TOFUで通用する国際的な健康食品ですが、そうなったのは最近のことです。アメリカで最初に豆腐が紹介されたとき、「豆腐は何でできるの?」と聞かれ「大豆」と答えたところ、「そりゃ、家畜のエサだ」と答えたのはもっともな話です。つまり、昔のアメリカの人たちにとって大豆は家畜のエサで、誰も口にしなかったのです。
これらを基に、これから先の穀物需給を考えると、次にような感じかな(なんか暗いなぁ~):
1)穀物需要は旺盛なので、今後うまく増産できたとしても、需給バランスは切羽詰まったものになる。
2)穀倉地帯に不慮の事故、例えば干ばつ、水害などの天災、また内戦などがひとたび起これば、一気に供給不足に陥る可能性がある。今はお金をだせば、いくらでも小麦を売ってくれますが、今後状況が厳しくなっても「札束で頬を叩く式の買収」がいつまでも続くとは限りません。