#102 これからの日本農業
2007年9月4日、米シカゴ商品取引所では、小麦の価格が史上初めて1ブッシェル8ドルを突破しました。ただブッシェル(bushel)と言われても、我々にはしっくりこないのでトンと円に換算してみましょう。改めてびっくりしたのは、元々ブッシェルというのは、重さではなくて体積の単位なので、穀物の種類によって、なんと1ブッシェルの重さが違うという事実。しかも技術の最先端をいっているアメリカ社会で、いまだにヤード、ポンド、ブッシェルといった前世代の尺度が使われているのはどうにも不可解です。
それはともかく、1ブッシェルの小麦は27.215kgということなので、これから1t=1000/27.215=36.74ブッシェル。今、為替レートを$1=\115とすると、1ブッシェル8ドルの小麦は、36.74×8×115 = \33,800/tになります。つまり現在の為替レートで計算すると、史上最高価格をつけた小麦の価格というのは1㌧あたり\33,800となります。
一方、国産小麦の価格はというと、新着情報#95でお知らせしたように、農家の手取りは約\15万/t(内10万円は補助金)です。つまり、驚くべきことに、小麦の国際価格が史上最高価格をつけても、国産小麦との価格差は、4倍以上あります。かといって、日本の農家の皆さんがリッチな生活をしているわけではありません。むしろこの15万円というのは、これ以上安くなっては耕作意欲がなくなってしまうぎりぎりの価格というのが実情です。
これが日本農業の限界で、世界との格差は歴然としています。以前も言ったように、1ドル360円の時代にさえ、自立できなかった農業は、円高が3倍に進んだ今日では、到底勝負になりません。つまり日本の農業環境は、世界と比較し、それ程不利だということです。これを裏付けるように日本の食糧自給率は、減少の一途を辿り、1965年に73%あった食糧自給率(カロリーベース)は2006年には39%にまで落ち込みました。40%を割り込んだのは14年ぶりのことで、先進国の中では、ぶっちぎりの最下位でした。
こういう状況の下、私たちには大きく分けて2つの選択肢があります:
①自由貿易主義的考え
農産物の内外価格差が10%程度なら、努力によって何とかなるかもしれない。でも4倍ともなると、これはいくら頑張っても、いかんともし難い。だったら完全に自由化して、小麦はすべて海外から輸入して、それで安いパンを作ればいいではないか。
②食料安全保障的考え
とは言うものの、いま輸出している国々もいつまでも食物の輸出余力があるとは限らないので、多少割高になっても自国で生産する必要があるのではないか。つまり、多少税金を投入し、自給率を上げる必要があり、その結果として、パンは割高になるのは仕方ない。
食料が潤沢にあるときは、自由貿易主義を支持する人が多いかな。しかし最近の状況として:
1)小麦の在庫率が史上最低を記録した。
2)人口が爆発的に増えつつある。
3)小麦価格が史上最高値をつけた。
4)温暖化により、異常気象が頻繁におきることが懸念される。
などなど、お尻に火がついてきたら、少しずつ②を支持する人が増えてくるかもしれない。
反捕鯨国の反対にあい、鯨が食べられなくなるのは残念だ。ロシアが蟹を売ってくれなくなると困る。また、ヨーロッパで鰻の稚魚の漁獲量が制限されたので、数年先に鰻が食べられなくなるかもしれない。でも、食料がなくなるというのは、明らかにこういった次元の問題とは、根本的に異なります。
このように日本農業は、今とっても重要な岐路に立っています。そしてWTO、FTA、EPAなどといいった重要な農業交渉が目白押しです。だから今度の農林水産大臣となる方には是非、じっくりと腰を据えて、日本農業、百年の計を考えてほしいと切望します。