#110 製粉企業数の推移
製粉会社って日本にいくつあるか知ってますか?そんなの知るわけないですね。だから日本の製粉事情について少し説明します。広辞苑によると、製粉とは「穀物を挽いて粉をつくること。特に小麦から小麦粉を製造すること」とあります。狭義においては小麦粉だけですけど、基本的には穀物を粉にするのであれば、何でもいいことになります。つまり、そば粉を挽いてもいいし、きな粉製造だって大豆から粉にするので、製粉と呼んでもいいことになります。でもここでは純粋に小麦製粉だけに限定したいので、製粉とは小麦製粉ということにします。
最初に近年の小麦粉消費の推移は、どうなっているかというと、戦後、食生活の洋風化、多様化に伴い、小麦粉消費は一気に伸びました。人口一人あたりの小麦粉消費は、1967年(S42)までは右肩上がりで伸び、その後現在まで、年間32kg程度で推移しています。つまり小麦の挽砕量(小麦を製粉する量)も、ここ数十年は、年間600万トンとあまり変化がありません。では、製粉会社の数はどうかというと、次の図をみてください。消費量がほぼ変わらないのに減り続け、それも半端な減り方ではありません。
ご覧の通り1965年(S45)には、全国で434社の製粉会社がありました。それが40年余り経過したら1/4以下に減り、今年の9月30日には、九州のとある製粉工場が廃業されたので、とうとう99社になりました。つまり単純に都道府県の数で割ると、各県には一つか二つあればいいということになります。これを多いと見るか、少ないかは判断の分かれるところですが、近年製粉会社の数が激減したのは事実です。この理由は次のように考えられます。
小麦粉を作る作業というのは、小麦から胚乳部分をとりだす単純なものです。しかし、実際には、胚乳部分をきれいに取り出すために、様々な機械装置が必要となるので、現在の製粉産業は装置産業となっています。ビール、セメント、製油などと同様、工場自体の建設費が高額になるため、建設費用を償却するためには、どうしても一定以上の小麦粉を販売せざるを得ません。よくテレビCMで、目にもとまらぬ早さでビールが製造されているのを見かけますが、それぐらいの量を製造しないと他社とのコスト競争ができないのです。200円のビール一缶だけを作るために、ビール工場を建てることはできないし、一日に小麦粉100kgだけを製造するために製粉工場は建てられないのです。
必ずしも大きいほど良いとも思いませんが(負け惜しみか?)、一般には一日に処理できる小麦の量が100トン未満の小規模製粉工場は効率がよくないと考えられています。事実、1965年ではそのような小規模製粉工場の比率が81.5%であったのに対し、2007年では34.6%にまで落ち込んでいます。廃業するところは小規模工場だけではありません。2006年には、国内製粉の4位と7位が合併して、102社から101社になりました。このように大工場でさえ効率化を求めています。この事実からも、製粉産業はいかに装置産業であるかということがよくわかります。
製粉工場数の減少化傾向は、日本に限らず、世界的な流れです。アメリカでは2000年の時点で日本の4倍の小麦を製粉しているにもかかわらず、製粉工場は184工場で、これを日本に当てはめると僅か46工場でよい計算になります。お隣の韓国は、小麦粉市場は日本の半分以下ですが、なんと11工場しかありません。製粉発祥の地であるヨーロッパは、今でも小さな製粉工場がたくさんありますが、傾向は同じです。だから日本でも減少化傾向は、今後も続くと考えられています。
では、小さな製粉工場はこれからどうすればいいのか?装置産業であるが故、皆同じものを製粉していたのでは体力勝負で敵わないのは明らかです。だからやっぱり、「うどん用小麦粉」などターゲットを絞って挽くとか、また小規模工場の利点を生かして、鮮度の高い小麦粉を届けるといった差別化を図らないと生きる道は無いのかと。中小の製粉工場は、こういったビジネスモデルが正しいのかどうか、社運をかけて検証中です。答は今から20~30年後にはでるんじゃないかと。