#123 製粉後の小麦粉の変化②・・・製パン性

新着情報#120、#121などから察するに、グルテンは製粉直後から、劣化し始めると考えてよいと思います。グルテンの弾性は一時的に大きくなることはあっても、これは結局、しなやかさが無くなっているだけで、最終的には「ぼろぼろ」になってしまいます。そしてこの劣化は、小麦粉に含まれる遊離不飽和脂肪酸の増加が原因であると、コズミンさんは説明しました。では、製パン性はどうか。つまり「パンを焼いたときに、どのくらい膨れるか」については、次のような説明があります(引用部分は#120の続きです)。

製粉後の小麦粉の熟成について②
ただ遊離不飽和脂肪酸というのは、グルテン自体の性質には大きな影響を及ぼすけれど、製パン性そのものに対しての影響は比較的小さい。むしろ製パン性は、不飽和脂肪酸よりも、その酸化物に著しい影響を受けるという事実がサリバン(Sullivan,1936)によって示された。フィッシャー(Fisher,1937)は、挽きたての小麦粉に、古くなって到底製パンには不適な小麦粉を少し加えることによって、製パン性が向上することを見つけた。ゼルニー(Zeleny,1954)によると、これは遊離不飽和脂肪酸が少し増えることによって、グルテン形成および製パン性が最適レベルにまで達したということになる。もちろん古くなった小麦粉は、それだけでは不飽和脂肪酸の酸化物を多く含んでいるので、製パンには適さないのは言うまでもない。

「穀物とその製品の保存について(D.B.ザウアー編)」より

 

ゼルニーさんによると、パンが一番膨れるのは、遊離不飽和脂肪酸が少し増えたときで、これは製粉後少し時間が経過したときです。一方サリバンさんによると、飽和脂肪酸の酸化物は、パンが膨れるのを妨げることになります。不飽和脂肪酸は、酸化されやすい性質を持っていると言われているので、酸化物は時間と共に増えることになります。つまり、挽いてから少し時間が経過した時点が、不飽和脂肪酸が少しできて、パンが一番よく膨らむが、その後はその酸化物が増え始め、だんだんと膨らみが減少することになります

これまで「製粉直後の小麦粉は酵素が活性化していて等々の理由で加工適性がよくない」とはよく言われてきましたが、きっと上記の説明も同じことの言い換えかも知れません。一般に時間が経過することによって、ある性質が好ましいものに変化するとき、私たちは「熟成」という言葉を使いますが、製パン性についていえば、「挽いてから少し経過した時間」が最適な熟成時間ということになります。じゃあ、「この少しの時間はどの位か?」と聞かれると、これは小麦の保存状態、製粉の方法、気温、湿度など要素が絡んで、厳密に何時間とは言えません。

以上をまとめると、製粉後の小麦粉の熟成については、「うどん用については必要なし(多分)、そしてパン用については、少し時間を置いた方がよい」ということになります。この関係は次のようなグラフにしてみるとわかりやすいかもしれません。本当には製パン性についての実験もした方がいいんですけど、本サイトはとりあえず、うどんに特化しているので、別の機会にということでご了承ください。

しかし、それにもかかわらずです。上記と矛盾するかもしれませんが、誤解を恐れずに言うと、うどん用もパン用も、やっぱり小麦粉は新しければ新しいほど良いと考えます。それを支持する考え方は、次の2点です。みなさんもじっくりと考えてみてください。

①小麦粉は、製粉後流通に時間がかかる
製粉直後の小麦粉をそのまま袋に詰めたとしても、必ず流通には時間がかかります。つまり到着するのを待ちかまえて、封を切ったとしても、製粉後1~2日は経過していて、その間に熟成は完了する。

②製粉工程中に熟成が進む
現在の製粉工程においては、小麦粉は、空気の流れに乗せる搬送する空気輸送方式(BGM付なのでクリックするときは周りに注意してください)が主流です。つまり小麦粉は、製粉工程中において、常に強制的に空気にさらされています。よって最終製品になった時点では、かなり熟成が完了しているという考えです。