#148 スイスと日本の小麦事情

新着情報#147で紹介したスイスの小麦粉は、1kg入が1.95スイスフラン(約200円)とカタログにあります。日本とどっこいどっこいのようですが、その品質が2等粉であることを考えると、日本よりまだ割高です。スイスの小麦粉が高い理由は、日本と同様、小麦農家を保護しているからです。ただ違うのは、国産比率です。日本は85%の小麦をアメリカ、カナダ、オーストラリアから輸入し、国産比率は僅か15%にしか過ぎません。一方スイスは逆に、国産(スイス産)比率は85%で残りをドイツ、カナダから輸入しています。

同じように国内小麦を保護しているのに拘わらず、スイスの自給率85%に対し日本の15%は余りに低すぎます。スイスの生産コストは国際水準よりも高いけれど、日本よりはぐっと安いから可能なのかもしれません。新着情報#102でお伝えしたように、穀物価格が史上最高価格をつけても日本の小麦価格はまだ国際価格の4~5倍の高値です。この主たる原因は日本特有の狭小な地形による生産効率の低さによるもので、これは到底経営努力で補えるものではありません。

輸入小麦の売却益を、国産小麦の補助金の原資に充てている現状では、国産小麦を際限なく増産することは不可能です。しかし一方では先進国中ぶっちぎりの最下位である食糧自給率39%を上げる必要もあります。自給率を上げる必要はあるものの、現行制度ではそれに伴う補助金の原資がみつからない、なぜこんなに大きな矛盾が生じるのか理解できません。そもそも食料自給率が39%ということは、食料全体の61%は輸入しているということで、これは先進国中最高です。にも拘わらず、農業分野で更なる市場開放を求められること自体が不思議でなりません。

注目を集めていたジュネーブのWTO閣僚会合は最後の最後で決裂しました。日本は当初、関税引き下げの例外措置が認められる重要品目を全体の8%と希望していましたが、最終的には、全体の流れの中で「6%(条件付)の受け入れもやむなし」との状況に追い込まれました。しかし最後になって、「アメリカ vs. (インド+中国)」の交渉が決裂し、結局はご破算になりました。農業分野では問題をとりあえず先延ばしにした格好になりましたが、工業分野での損失はあまりに大きいともいいます。

日本は膨大な工業製品を輸出するために、農業分野において大幅な譲歩をしなければならないことは理解できます。しかし世界的な穀物価格の高騰、人口の急増などを背景に、食料を取りまく環境も悪化しつつあるのも事実です。「農業問題だけを特別扱いできない」、「いや食料問題は命に直結する問題なので重要だ」など色々な意見があり、それぞれの理由は納得できるものです。だから問題がよけい難しくなっているのかな、っと。