#223 うどん生地③・・・ゆでた長さが違う理由

新着情報#222では同じ長さのうどん(麺線)でも、カットした方向が違うと、ゆでたときの長さが違うことを確認しました。これからその理由について考えますが、その前にグルテンとでんぷん粒の性質をおさらいしておきます。まずうどん生地の中にあるのは、水、グルテンそしてでんぷん質です。グルテンは小麦粉中のタンパク質であるグリアジンとグルテニンが水と一緒になり、捏ねることによってできたタンパク質です。これ以外のタンパク質もありますが、今は関係ないので無視します。

では小麦粉に水を加えて捏ねた生地を思い浮かべてください。これは鉄筋コンクリートの建物に喩えるとよく理解できます。ここではグルテンが鉄筋、そしてでんぷん質がセメントです。この辺りは既に、新着情報#193#194#195あたりで紹介済みですが、これが今回のポイントなので再度簡単に復習します。鉄筋とセメントの喩えはイメージが浮かび大変判りやすいのですが、若干異なっているところもあるので、その辺りを中心に。

【鉄筋とグルテン】
グルテンは生地中で立体網目構造を形成し、生地(建物)を支えるので、この点においては鉄筋とよく似ています。ただ鉄筋は最初からカチンカチンですが、グルテンは最初チューインガムのように「ぐにゅぐにゅ」しています。そして加熱されることによって失活し(活性を失う)固まりますが、この時点でようやく鉄筋のイメージに近くなります(#194)。つまり活性グルテンは生地を一つにまとめあげる「つなぎ力」を持ち、尚かつ自由に変形することができます。

【でんぷん質とセメント】
セメントもでんぷんも水と混ぜただけでは、「つなぎ力」はゼロで全然まとまりません。セメントは時間の経過と共に硬化します。そしてでんぷんは加熱することによって固まりますが、相違点は水を吸収しながら糊化し、膨化する点です。因みにでんぷんに水を加え、上手く加熱すると煎餅のようにカチンカチンに固まります(#193)。

ゆでる前のうどん生地が切れずに一つの塊として存在できるのは、グルテンによる「つなぎ力」のお陰であり、延ばしたり引っぱったり自由に変形できるのはグルテンの「活性」によるものです。余談ですが三つ編みパンとか動物パンなど複雑な形をしたパンは、焼き上げる前にその生地を成形しますが、それができるのもこのグルテン活性のお陰です。そしてうどんをゆでると、「ぐにゅぐにゅ」→「シャキッ」となるのは、グルテンが失活して硬くなるのと同時にでんぷんが糊化して固まるせいです(#195)。

さてここからいよいよ、うどん生地をカットする方向の違いによって、なんでうどんをゆでたときにより長くなったり太くなったりするのか考えてみます。生地を充分に捏ねることによって、グルテンが形成されますが、この時点では粒状のグルテンとして生地中に点在しています。そして生地を鍔付ロールで圧延すると、生地は圧延方向後方に延びます(#221)。と同時に粒状のグルテンも同じ方向に長く延び、イメージでいうと上図のようになります。また圧延方向と平行にカットしたうどんのグルテン構造は次の(図A)の状態となり、また圧延方向と直角にカットした場合は、(図B)の状態になります。

うどんを鍋に入れてゆでると、グルテン繊維は失活して硬くなり、また生地中のでんぷんは水分を吸収してどんどん膨らみます。ポイントはグルテンが硬化するのと、でんぷんが膨化を完了するのとどちらが早いかです。実際に裏を取ったわけではありませんがテキストなんかを見るとでんぷんは60℃辺りで糊化すなわち膨化が始まり、85℃あたりで完全に膨張するとあります。一方、グルテンが失活するのは大体80℃であることが知られています。つまりどういうことかと言えば、グルテンが硬化した後も、でんぷんはまだ膨張を続けているわけです。

ここで再度(図A)をご覧ください。もしグルテンが「ぐにゃぐにゃ」の状態なら、でんぷんは水を吸い込んで、縦にも横にも自由に膨れることができます。そしてそうこうする内に、グルテンが固まり鉄筋のイメージに近くなります。すると(図A)中の鉄筋は水平方向だけに走っているので、その鉄筋に妨げられてでんぷんは水平方向には膨れることができなくなります。一方縦方向には鉄筋は入ってないので、でんぷんは縦方向には膨れることができます。つまり(図A)の場合だと、最初は気持ちよく膨らみ続けているのが、温度が上がるにつれて「長くなりにくくなり、太くなり易くなる」ということになります。同じ考え方で、圧延方向と直角方向にカットした(図B)ではうどんは長くはなり易く、太くなりにくくなります。

このように考えると、(#222)の画像のような違いも、一応理解できます。ここで考えた例は、もちろん生地を同じ方向に延ばしたとき、つまりグルテン繊維が方向性を持っている場合に限ります。以上を簡単にまとめると、「圧延方向と平行に切った麺は太くなりやすく、直角に切った麺は長くなりやすい」ということになります。