#225 うどん生地⑤・・・手打ちうどんの場合
ロールで生地を圧延するとグルテン繊維は、方向性を持つようになります。それでは手打ちうどんの場合はどうなるか考えてください。もし長い麺棒で同じ方向ばかりに「ぎゅっ、ぎゅっ」と延ばせば、ロールで延ばすのと同じ効果が得られるので、グルテンは同一方向に延びます。しかし実際にはそうはしません。形がいびつになるからです。
実際の手順はどうなっているかというと、最初は麺棒で生地を上から押しつけ、ある程度の厚さになったら生地を麺棒に巻きとります。次にそれを麺台に押しながら回転させ、延ばします。すかし打ちなら「トントントン」と音がでて、見た目は格好良いですけど、効果は同じです。ある程度延びると、麺台に広げて打ち粉を振り、また違う方向から巻き取り、同じ操作を繰り返します。っで、色んな方向から巻きとっては延ばすので、一見グルテン繊維はランダムに形成されそうな気がしますが、実際はそうはなりません。その事実をこれから検証します。
延ばした生地を、麺台に広げてみると、巻きとった方向に生地が延びていることがわかります。しかも麺棒に近い方の生地がより薄くなっているので、同じ巻きとった方向でも中心に近い程(麺棒に近い程)、よく力がかかり、そして延びていることになります。つまりグルテン繊維は同じ方向に長くなっても、麺棒に近い中心部分の方がより長く引き延ばされていることになります。
すると、次は生地の厚い部分を延ばさないといけないので、今後は反対方向から生地を巻きとり、延ばしてやります。それを広げると、縦方向の厚さは均一になりますが、生地はますます細長くなり、また両端は厚い状態のままです。よって今度は生地を90°回転させて巻き取り、延ばします。そして今度は同様に反対方向から延ばします。
結局やっていることは、麺棒を全ての方向から巻きとって延ばしているのと同じです。どの順番で巻きとって延ばしても、全ての方向に同じ回数だけ延ばせば同じことですが、盲滅法にやるとどこから巻いたか判らなくなるので、普通は生地を90°ずつ回転させながらやる方法が一般的です。そして最終的に全ての方向から巻きとり延ばした結果、どうなるかといえばグルテン繊維は、中心から外に向かって放射状に形成されることになります。つまり手打ちうどんの生地を延ばしたとき、グルテン繊維はでたらめではなく、中心から外に向かって一様に延びているわけです。
余談ですが、普通延ばした生地は円形になりまが、うどん屋さんや上級者になるとできあがりの生地は正方形を好みます。理由は切ったときのうどんの長さが均一だからです。よって延ばす途中の段階で角を出す必要がありますが、これを「角出し(つのだし)」といいます。延ばす前の丸い団子生地を正方形にするには、延ばす前に4つの頂点をどこにするか決め、その4点から重点的に巻きとり、延ばせばよいことがわかります。つまりそこから巻きとると、そこに力がかかり、そこが延び、結果として角出しができることになります。