#233 (Q)多加水(たかすい)とはどんなうどんを指しますか?
埼玉県の広瀬様より次のようなご質問をお寄せいただきました:
(Q)手打ちうどんが美味しい理由の一つに「多加水であること」とありましたが、どのくらいの割合以上を多加水というのですか?機械で製麺した場合の加水率は手打ちに比べ低いのですか?
うどんを作るとき、小麦粉に対する塩水の重量%を加水率といいます。例えば小麦粉1kgに対し、塩水500gを加えたときの加水率は50%となります。そして小麦粉を捏ねるとき、多くの塩水を使用することを、うどんの業界用語として「多加水」といい、多加水で練った生地からは、もっちりとした美味しいうどんができると言われています(というか事実です)。ただ漠然と多加水といっても、いくら以上が多加水なのか、また同じ加水率であっても、その塩水濃度によって含まれる真水の部分は大きく異なります。
簡単な例を考えます。小麦粉1kgに対し「塩水濃度10%の塩水500g」と「塩水濃度15%の塩水500g」は、どちらも加水率は50%となります。しかし前者は「食塩50g+真水450g」であるのに対し、後者は「食塩75g+真水425g」となり、真水の部分で25gの違いがあります。水には生地をやわらかくする性質があるので(当然ですけど)、前者の生地は後者に比べずっと延ばしやすくなります。しかし違いはそれだけではありません。食塩はグルテンを強靱にする効果があるので、食塩を多くすると生地は延ばしにくくなります。つまり水は生地を延びやすく、逆に食塩は生地を延ばしにくくする性質があるので、この場合その効果はダブルで効いてくることになります。
冬の寒い時期、13~15%といった濃い食塩水を使用すると、麺棒で延ばした生地を麺打ち台に広げたとき、それが縮んでなかなか延びなかった経験をされた方も多いと思いますが、これは食塩の効果によりグルテンが強化された結果です。よって同じ加水率でもその内容にはかなりの違いがあるので、加水量つまり加える食塩水の重さだけでは、多加水云々は議論できません。そこでいくつか当たったところ、製粉業界の重鎮である小田聞多先生は真水の部分に着目し、「小麦粉100%に対し真水の部分で40%以上を多加水」であると定義されていて、これが実状にうまく合致すると考えます。ちなみにこれは10%塩水であれば444g(食塩44g+真水400g)、15%塩水であれば471g(食塩71g+真水400g)以上が「多加水」ということになります。
よって塩水濃度に違いはありますが、一般に加水率が44~47%以上、簡単にいえば45%以上であれば多加水麺といって差し支えないと考えます。そして手打ちうどんの場合は、普通は放っておいても多加水麺になります。理由は加水率が少ないと、人力では生地がまとまりにくく、また延ばしにくいからです。一方、機械製麺ではロールで生地を延ばします。この場合は多加水であれば、生地が柔らかすぎて、ロールにくっついてうまく製麺できません。よって低加水にならざるを得ないのです。では、「生地はまとまるのか?」との疑問も当然ですが、機械の力はとても強く、全然問題ありません。それどころかモーターの力が強すぎて、逆にグルテン繊維が千切れてしまうという弊害でてきます。
つまり人間の力というのは、うどんの生地を延ばすのに丁度良い塩梅ということになります。硬くもなく、また柔らかすぎず、程良いうどんのコシは手打ちうどんによって生み出される事実は、この辺りに一つの理由があると思います。