#274 でんぷんの性質その④・・・うどんの劣化
うどんを沢山ゆで過ぎて残ったときは、普通は乾燥しないようにラップにかけて冷蔵庫に保存します。しかしうどんはでんぷんの塊なので、冷やし始めると同時に糊化したでんぷんの老化が始まります。そして老化のスピードは水が凍る直前の2~4℃の温度帯が最も早く進むので、どうしても冷蔵庫で保存するのであればチルドルームや冷蔵室はなるべく避け、野菜室とかドアポケットの方が良いことになります。
ゆでたうどんを長い間冷蔵庫に入れておいたら、ポロポロと折れたり、べとついたり、また水っぽくなったりした経験がある方もいらっしゃると思いますが、これが所謂でんぷんの老化によるものです。またこれはスーパーで買ってきたうどんも同じことが言えます。生鮮食料品だからといって何でもかんでも冷蔵保存すれば良いというものでもないのでご注意ください。もし興味のある方は、ゆでたうどんを其々の温度帯で保存してみて、その違いをご確認ください。
ところで普通うどんの劣化と言うとすぐに思い浮かぶのは、「うどんのゆでのび」です。これはゆでた直後の数十分から数時間の短時間で起こるもので、その原因はうどん内部における水分の均一化によるものです。うどんはゆでてる間に、徐々に表面からお湯が内部に浸透していきます。そしてゆでた直後のうどんの水分は、表面近くが80%以上になっているのに対し、中心部分は40~50%です。よってゆであげ直後のうどんを噛んだ時には、最初は柔らかいけれど中心部分はしっかり感があり、これがうどんのコシと言われるものです。「柔らかい中にもコシがある」という一見矛盾したさぬきうどんの表現ですが、これはゆで直後の水分格差に大きな理由があります。
しかし水は多いところから少ないところに移動するのが自然の法則で、この水分勾配も時間と共に均一化し、最終的にはうどん内部は大体どこも同じような状態になります。これが所謂「うどんが延びた」状態です。下図は水の浸透具合が良くわかるように、着色したお湯でゆでた後の状態の変化を示したものです(長井恒、うどんの技術)。ゆでた直後は中心にまだ白い部分が残っていますが、4時間も経てば水分勾配がなくなりほぼ均一になるのがわかります。「うどんがのびる」という感覚は主観的なものなので人によって感じ方は色々ですが、お店によってはゆでて15分以上経ったうどんは出さないという厳しいところもあるやに聞いています。
少し話が外れますが、食品を評価するには大きく分けて食味(テイスト)と食感(テクスチャー)があります。前者は味そのものであるのに対し、後者は舌触り、滑らかさ、弾力性などが該当し、うどんのコシもこの食感に含まれます。どちらも重要であることには違いありませんが、個人的には食感重視だけのうどんは食べていて飽きるので、食味の方がやや大切かなとも思います。そういう意味で誤解を恐れずに言えば、風味の乏しいゆで上げ直後のうどんよりも、たとえのびていても熟成をしっかり効かせて打った、でんぷんの風味が味わえるうどんの方が断然好きです。ですから時には専門店のうどんよりも、スーパーで買ってきたうどんの方が美味しいと感じることもあります。
以上を簡単にまとめると、ゆでうどんの劣化には大きく分けて2つがあります:
①ゆで伸び:これはゆで直後の短時間におこるもので、うどん内部の水分格差が時間と共に均一になることが理由です。
②でんぷんの老化:これは主として温度の低下によるでんぷんの老化により食感が劣化するものです。