#286 香川県農業試験場

先日(2011.5.19)香川県農業試験場に於いて、「平成23年産小麦の生育状況」についての説明がありました。昨年(平成22年度産)は、播種前後の降雨、3月末の凍霜害(とうそうがい)、4月中旬の低温多雨などの悪条件が重なり、平年の70%程度の凶作でしたが、今年はスクスクと順調に育ち平年以上との報告でした。しかしその後収穫直前の5月30日になって季節外れの台風に見舞われ、関係者一同真っ青になりましたが、その後の好天でなんとか持ち直し、そこそこの収量が見込めるところまで回復しました。(詳細は機会があればまたご報告したいと思います)。

さて香川県農業試験場では、平成3年より香川県独自の小麦の育種が始まり、そこで開発された小麦品種には、順番に「香育◯◯号」という系統名が付けられています。香川県産小麦として有名な「さぬきの夢2000」は香育7号、つまり7番目に開発された品種です。そして「さぬきの夢2000」は今年から3年かけて新しい品種「さぬきの夢2009」に全面的に切り替わります。この「さぬきの夢2009」決定時には香育20号と香育21号の2つが有望品種として残り、関係者一同が悩みぬいた末に香育21号に決定した経緯があります。

そして現在も次世代「さぬきの夢」が開発中で、これまでに香育26号まで開発が進んできます。育種を担当されている藤田究主席研究員によると、香育23号は「色調がもう一つ」、香育25号は「色は良いけど耐倒伏性に劣る、そして最新版の香育26号は「『さぬきの夢2000』と良く似ているけど、色は少し良い」などなど、それぞれに個性があります。このような地道な努力によって更に素晴らしい新品種が開発されます。蛇足ながら耐倒伏性というのは、倒れにくい性質のことで、品種決定においては重要な要素です。というのは麦秋を迎えると麦穂は成長し重くなりますが、そんなときに雨風に遭うと、倒伏してカビなどが発生して商品価値が著しく損なわれるからです。特に今年のように季節外れの台風に遭うと、耐倒伏性の重要性を痛感します。

説明会の後は、農業試験場の圃場見学ミニツアーがありました。圃場に網を張っている理由は、正確な収量を把握するために、小麦を雀から守るためです。この網、雀1羽がのったぐらいではびくともしませんが、雀もさるもの、一度に数羽がのっかかり、網をしわらせて、麦穂をつっつくそうです(恐るべし学習能力)。中には網に絡まって身動きできない雀もでてきますが、そこは丁重に解きほぐして開放してやります。

場所によって畑の色が違うのは、播種時期が異なるためです。余り早く播き過ぎると、春先の穂がでることに凍霜害に遭います。逆に遅すぎると今度は収穫時期が梅雨と重なり都合が悪く、最適な播種時期を決定するのも簡単ではありません。播種時期を色々試行錯誤しながら最適なタイミングを見つけます。

香川県農業試験場は、明治32年に高松市栗林町(当時は栗林村)設立され、今年が設立110年になります。そして現在の仏生山町に移転したのが昭和5年ですので、現在の建物は今年で81歳になります。その本館は歴史を感じさせる風格のある建物ですが、老朽化は否めず、今秋綾川町へ2度目の引越しとなります。新しい環境で更に素晴らしい小麦が開発されることを期待します。