#308 TPPを考える・・・その②

こういう状況の下、一気に自由化が進むと、まず国際価格30円/kgという安い小麦で製粉した小麦粉が海外から輸入されると思います。すると日本の製粉会社は、MA(マークアップ=17円/kg))を払う余裕はなくなるので、海外と同じ価格の小麦を製粉します。つまりMA分だけ安くなり、これはうどん玉に換算して2円程度、もしくは一人当り年間700円程負担が少なくなります。更に海外との競争も激化するので、競争原理が刺激され、値下げ幅はもう少し大きくなる可能性があります。

次にMAがなくなると、内麦の補助金の原資も無くなります。すると補助金なしには、生産コストが5倍もかかる内麦は自立できなくなります。もちろん消費者の中には、「どんなに高くても国産を買うよ!」という購買層もありますが、それは限定的なので、内麦は一部の特殊需要を除いてなくなるでしょう。もし内麦を存続させたければ、補助金の原資をどこかに求める必要がありますが、今度は、国際価格の小麦が相手なので、従来の補助金に加えMA分も負担する必要があります。よって100万tの内麦を維持するには、(100円+17円)/kg×100万t=1170億円の補助金が必要です。ところが今や国の財政は1000兆円を超える借金を抱えた火の車状態で、この上更に1170億円の新たな出費は、余程の理解がないと認めてもらえる状況にはありません。

ではTPPは日本の製粉会社にとってはどうでしょう?まず海外から小麦粉が輸入されるので、輸入される分だけ国内での生産量が減ることになります。それは日本の小麦粉の品質が劣るからではありません。現在日本においては、パン、麺、菓子などあらゆる小麦粉製品が製造され、それぞれに特化した専用の小麦粉が製粉されています。よって日本の小麦粉は種類の豊富さだけでなく品質も世界一、というのが業界内外の共通認識です。しかし小麦粉市場の中には、品質よりも価格が優先される需要もあり、そういったところは輸入小麦粉にとって替わられると考えられます。その市場は、全体の1割になるのか2割になるのかは判りませんが、全体としての消費は一定なので、輸入される小麦粉相当分が、国内生産から減ることになります。

また繰り返しになりますが、国際価格の安価な小麦を購入して製粉するので、小麦粉価格はそれだけ安くなります。つまり製粉会社にとっては、販売量が減少し、しかも販売価格そのものも下がるというダブルパンチに見舞われ、総売上高はかなり減るだろうと予想できます。しかし一方で、人件費や製粉機械など機械設備の償却費、いわゆる固定費は従来と同じだけ必要です。よってコストが同じだけかかるにも拘らず大幅減収となるので、経営的にはかなり厳しい状態になります。この状況を打開する唯一の方法は、販売量を増やし薄利多売を推し進める、いわゆる装置産業化を一層推進する必要があります。よって結果として、製粉会社の淘汰が進み、製粉会社の数はかなり減ることが予想されます(まずいなぁ(汗!))。

小麦粉価格の下落は、うどん屋さん、パン屋さんなどの小麦粉加工業者にとっては、どう影響するでしょうか?原材料の仕入れ価格が下がるので、一見プラスに見えますが、これは同業者全て同じ条件なので、結局のところ販売価格が下がり、減収となります。そして製粉会社と同様、固定費自体は変わらないので、経営的にはマイナスになると考えられます。しかもパンもうどんもクッキーも全て輸入できるわけですから、加工業者も海外の同業他社との競争を強いられることになり、結局製粉会社と似たような状況になるような気がします。以上を簡単にまとめると、次のようになるんじゃないか、っと。

1.何もしなければ内麦は壊滅的な打撃を受け、生産はほとんどなくなり、食糧自給率は更に下がる。
2.小麦粉価格及びパンやうどんなどの加工製品の価格も下落する。
3.製粉会社(及び加工業者)は淘汰が進み、企業数は更に減少する。

続く・・・。