#311 2011年オーストラリア小麦事情
ご存知麺用小麦粉の主原料小麦と言えば、ASW(オーストラリアン・スタンダード・ホワイト)で、年間100万t程度が輸入されています。ASWは単一銘柄ではなくて、いくつかの銘柄がブレンドされていますが、その構成品種は時代とともに変わり、現在はANW (Australian Noodle Wheat)とAPW (Australian Premium White)という両銘柄を一定比率で混合しています。前者(ANW)はオーストラリアン・ヌードル小麦という名前からも分かる通り、麺用適性をもった小麦であるのに対し、後者(APW)はオーストラリアン・プレミアム・ホワイト、つまり上級白小麦という汎用適性をもった小麦です。
汎用性があるというのは、本来は多目的に使えるので便利ですが、逆に言うとそれだけでは特徴のない平均的な小麦ということになるので、ASWにはANWが不可欠ですが、その栽培地域は、オーストラリア西部に限られています。昨年のオーストラリアの小麦は豊作でしたが、それは東部地域に限ったことで、西部地域は干ばつのせいで収量が大幅に落ち込みました。その結果ANWの収量も減少し十分な数量が確保できず、日本向けASWにおけるANWの使用比率が下がりました。
そして従来とは異なる構成比率のASWは今春より輸入されています。つまり厳密に言うと、同じASWでも現在は従来とは少し異なる規格のASWが輸入され、製粉されているので、小麦粉の品質もほんの少しだけ異なっています。よって当初それに伴う作業適性の低下を危惧されていたうどん屋さんもありました。しかし幸いなことに結果的には大した混乱もなく今日に至っていますが、これも偏にうどん屋さんの腕によるところが大きいと思います。この辺りの事情に興味ある方は、
#267をご覧ください。
さてここで気になるのが、今年の作況ですが、結論からいうとまずまずの収穫で、来年のASWのANW比率は通常に戻るようです。次の表(㈱組合貿易提供)は、ここ数年のオーストラリアにおける州別小麦生産量の推移です。4年連続で2000万tを越えているので豊作が続いているように見えますが、実情はそうではありません。棒グラフの一番下の黄土色部分が西オーストラリア州の生産量ですが、2010年は500万tを割り込み、これが今年、ヌードル小麦(ANW)が不足した理由です。
補足すると、赤の折れ線グラフは、西オーストラリア州の小麦生産量のうちANW(ヌードル小麦)の比率を示し、右の目盛りがその比率(%)です。つまり2010年の西オーストラリア州の生産量は500万t以下で、しかもANW比率が10%以下なので、ANWの生産量は50万t以下ということになります。余談ですが、ANWの生産比率は、今年は若干持ち直したもののほぼ右肩下がりで減少しています。これは仄聞するに、反収が少ないために農家が耕作したがらないためで、ANWの比率を上げるためには、他の品種よりも高く買い上げるといったインセンティブをつける必要があります。
西オーストラリア州の生産量の詳細な数字は次の表(㈱組合貿易提供)をご覧ください。過去4年間の生産量は全体で784万t⇒750万t⇒440万t⇒952万t、またANWに限るとは137.2万t⇒85.5万t⇒44万t⇒96万tと推移しています。そして現在はこのANWを、日本と韓国の2カ国で分配しています。2008年は、日本向ASW及び韓国向ASWのANW比率は65%と40%でしたが、2010年は不作だったために、其々30%にまで落ち込みました。そして今年(2011年)は、生産量が持ち直したのでそれが60%と40%と、ほぼ以前の水準にまで戻ることになっています。
そしてこの構成比率のASWが日本に向けて出荷されるのは、おそらく来年の3月積みあたりのものであろうと言われています。よって来春までには日本に到着し、こちらの備蓄分が入れ替わる初夏頃には、ASWは元の品質の戻ると予想されます。ただ手放しで喜ぶわけにもいきません。実は収穫期の11月、西オーストラリア州は皮肉にも多量の降雨に見舞われ、品質の低下が懸念されています。自然相手の商売はなかなか思い通りにはいきません。