#323 薄力粉はなぜ弱力粉と呼ばないのか?
小麦粉の分類方法には2種類あります。一つはグレード(等級)による分類、そして2つ目がタイプ(種類)による分類です。前者は灰分の少ない順に特等粉、1等粉、2等粉、3等粉、そして後者はたんぱく質(グルテン)の多い順に強力粉、中力粉、薄力粉と呼ばれています(小麦粉の分類)。うどんには、グルテンの量が中くらいの中力粉が使用されます。強力粉だと麺がピンピンするし、薄力粉だと締まり過ぎて硬く感じます。またグレードが低いと、つるみ感やのど越しがイマイチなので、1等粉が好まれます。つまり標準的なうどんは、中力1等粉が使用されます。
ところでタイプの分類方法については、どうも腑に落ちないところがあります。というのはグルテンが多い小麦粉が強力粉であるのに対し、グルテンの少ない小麦粉がなぜ薄力粉なのかという疑問です。業界ではグルテンの多い小麦粉を、「力(リキ)が強い」というので、強力を「きょうりょく」ではなく「きょうりき」と読ませるのは納得できます。しかし強力粉、中力粉とくれば次にくるのは当然、弱力粉であるはずです。また薄力粉を基準と考えるならば、薄力粉⇒中力粉⇒濃力粉となるべきです。「薄」は薄いという意味なので、その反意語は「濃」であるべきだからです。
ネットで検索してみると、同じ疑問を持たれている方は少なからずいらっしゃるようでしたが、ただその答えとなるとなかなかしっくりくるものが見つかりません。そこで前回同様(財)製粉振興会にお尋ねいたしましたところ、快くご回答いただきましたので、原文をそのまま紹介させていただきます。
「中国では、用途から考えて、古代に小麦粉をグルテンの力で分類するという発想はなかったと思われますので、明治時代末期に必要上から自然発生的に生まれた言葉だと思います。製粉会社が販売の都合で名付けたのが、普及したのではないでしょうか。当時創業の大手製粉会社の社史を見ても、その辺のところは書いてありません。強力粉は自然というか当然の言葉ですが、それに対応する言葉として「弱力粉」では印象が悪いので、「薄力粉」と言ったのだと思います。製粉の先進国である欧米には、これらに相応する言葉も概念もありません。硬質小麦の粉および軟質小麦の粉と呼ぶか、パン用粉、ケーキ用粉、クッキー用粉などと呼びます」。
意外にも小麦製粉発祥の地であり先進国でもある、ヨーロッパやアメリカには、グルテンの量に応じた小麦粉の名前はないのです。スーパーでは”all-purpose flour”となんでも使える(多目的)小麦粉みたいな名前がついていますが、結局のところは「帯に短し襷に長し」的な小麦粉で、日本の感覚からすると中々満足する製品には仕上がりません。逆に製粉後発国である日本でこれほどはっきりと目的別に分類された理由は、伝統的な和風麺という土壌に、パンやケーキといった食文化が輸入され、どれもこれも美味しく食べたいという私たちの食に対する探究心の結果であると考えます。
聞くところによると、現在中国では小麦粉を「麺粉」といい、強力粉・中力粉・薄力粉を、それぞれ高筋麺粉・中筋麺粉・低筋麺粉とよぶそうです。麺だけでなく、パンやケーキを焼いても小麦粉は全て麺粉というところが少しひっかかりますが、高筋・中筋・低筋はなかなか旨いネーミングだと思います。というのは小麦粉生地を建物に喩えたとき、グルテンは鉄筋に相当するので、強力粉を、高筋麺粉と書くといかにも沢山の鉄筋が入っていて強そうなイメージを連想させるからです。また高・中・低と分類するのも理にかなっています。よって私達も単純に高筋粉・中筋粉・低筋粉と呼んでもいいんじゃないかと思ったりします。