#333 最後の「さぬきの夢2000」
これまで何度がお伝えしたとおり、香川県で作付されている小麦の品種は、現在「さぬきの夢2000」から「さぬきの夢2009」へと移行中です。そして「さぬきの夢2000」が作付されるのは今年限りで、来年(平成25年産)からは全量「さぬきの夢2009」となります。前者は外国産小麦にはない内麦特有の旨みをもつ小麦ではありますが、グルテンの性質が若干脆いため、作業適性がやや劣るという欠点がありました。そこでこれを補うために品種改良が行われ、最終選考に残った「香育20号」と「香育21号」のうち、後者が「さぬきの夢2009」という後継品種に決定されました(#210)。
ここ数年は移行期間であるため、どなたでも両品種の試し打ちが可能です。そして両者を充分に吟味した結果、「作業適性にやや難はあるものの、やっぱり『さぬきの夢2000『の方が好きだ」という意見のうどん屋さんも少なからずいらっしゃいます。できれば両品種を作付することができれば理想ですが、香川県における作付面積は1500ha程度しかないので、それは現実的ではありません。よって「さぬきの夢2000」は惜しまれつつも、今年で最後となります。そこで先週近所で「さぬきの夢2000」を作付している中村さんの圃場に、見納めにいって参りました。
お話を伺ったところ、中村さんが耕作されている6反の圃場は米と小麦の二毛作です。香川県では水田の裏作として麦を耕作する二毛作は珍しくありませんが、裏作の選択肢としてハダカムギ(大麦)にするか小麦にするかは少々悩むようです。悩む理由は、価格差、栽培適性、収穫時期などがビミョーに異なるからです。例えば現在はハダカムギの価格が高いけれど、倒伏しやすいので小麦の方を耕作する農家もあります。一方ハダカムギの方が2週間程早く収穫できるので、梅雨入りリスクを避けることができます。またその分、余裕を持って田植えの準備ができるので、ハダカムギを耕作される農家もいます。
また同じ小麦でも香川県南部の山間地域は気温が低いせいか、収穫時期が6月上旬~中旬であるのに対し、ここ坂出地域は6月上旬にはほぼ終えています。とは言うものの坂出市近郊は、県内では比較的田植えが早い地域なのでほとんどがハダカムギを栽培し、小麦は少数派です。よって5月下旬はハダカムギの麦秋ですが、うどんツアーに来られた方々の多くは、それをみて小麦と勘違いされるようです。で、話は戻り中村さんになぜ小麦を栽培するのかと尋ねたところ、小麦の方が栽培しやすいからとのお答えでした。しかし昨年は収穫時に季節外れの台風による水害に見舞われたために、結局全然収穫できず、自然相手の農業の不安定な状況がよくわかりました。
現在私たち製粉業者にとっての気がかりは耕作者の高齢化です。現在小麦耕作者の平均年齢は60歳台半ばなので、後十年もすればどうなるのかとても心配です。後継者不足の大きな理由はやはり収入にあると思います。小麦の単収、つまり1反当りの収穫は300~350kgですが、これは補助金を含んでも5万円程度です。またお米の場合は10万円程度になりますが、両方併せても15万円です。つまり1反(10アール)耕作して15万円なので、少なくても専業農家として生計を立てるには、5ha工作して750万円程度の売上げは確保する必要があります。
これは北海道や九州の大規模農場が可能な地域であればまだしも、ただでさえ狭小な香川県において、しかも乱開発により蚕食された農地では中々容易ではありません。また北海道や九州といっても、アメリカやオーストラリアと比較すると耕作規模は遥かに小さく、これが日本農業の抱えている本質的な問題点です。TPPが絡んだ大難問ではありますが、なんとか国産小麦を維持できる制度を存続させていただきたいと願って止みません。