#359 製粉と小麦粉のお国ぶり・その③
さて改めて人口100万人当りの製粉工場数を考えてみます。中国やインドは別格として、他の国々は全て10工場以下です。もちろん1人当たりの小麦粉消費量にもよりますが、1工場以下という国も結構あります。日本は0.79工場ですので、かなり工場集約が進んでいるといえますが、中には韓国やフィリピンのように行き着くところまで行ってしまったような国もあります。一方、黄色で表示したフランス、ドイツ、イタリア、スペイン辺りは、集約化が緩やかで、この点少し意外に思う方がいるかも知れません。
つまり単純に考えると、そういった先進国は、集約化がもっと進んでいてもいい筈なのに、なぜそうなっていないのかという点です。これには2つの理由があると思います。先ず韓国やフィリピンは、実質的には小麦が生産されず、全量輸入に頼っています。よって何の制約も受けずに、スケールメリットが追求され、集約化が速く進みました。一方、フランス、ドイツといった国々は独自の小麦文化があり、夥しい数のパン屋さんがあります。つまり其々のパン屋さん、製粉工場には独自の特徴やこだわりがあるので、これまでのところは、その多様性が市場で支持されてきたからだと思います。
しかしそうは言っても世の流れは大規模化、集約化の方向にあるのは間違いありません。フランス、ドイツもその例にもれず、近年製粉工場数は激減しました。日本の集約化は韓国ほど極端ではありませんが、今後は予断を許しません。もし農業分野が自由化されてしまうと、価格競争力のない国産小麦はあっという間になくなり、そうなると製粉産業は一気に集約されそうです。各地域の小麦文化と結びつきの強い中小製粉としては、なんとかその小麦文化、そして製粉の多様性を維持したいところではあります。
食文化はそれぞれの国によって大きく異なります。(#358)では小麦粉を一番多く消費するのは、トルコの人たちであると紹介しましたが、エジプトも同様に世界最高水準を誇っています。表ではエジプトは82.6kg/人となっていますが、これ以外にかなりの量を輸入し、アフリカ最大の小麦消費国となっています。具体的には、2008年には一人当りの小麦消費量はなんと195kg。小麦と小麦粉との比較で紛らわしいところがありますが、エジプトの人たちは歩留り82%や72%といった小麦粉が標準なので、小麦粉換算でもかなりのものです。
水色で表示した国々はどちらかといえば、小麦粉消費が比較的少ないところです。日本には、うどん、そば、ラーメン、パン、ケーキ等などありとあらゆる小麦粉製品があるので、かなりの小麦粉を消費している気がしますが、世界的に見れば少ない方です。理由はもちろん、主食がお米であるためです。ただ主食の米は戦後一貫して減り続け(#345)、先日米の購入額がパンに抜かれたのは記憶に新しいところです。
韓国の消費が少ないのは、日本同様米が主食であるためです。南アフリカは、トウモロコシのコーンミールが主食であるために、従来小麦の消費は多くありませんでしたが、アパルトヘイト後は、都市部を中心に小麦パンの人気がでてきました。まだまだトウモロコシの消費が小麦のそれを上回っていますが、その差は縮まりつつあります。現在小麦の年間製粉能力が330万tであるのに対し、トウモロコシのそれは470万、また製粉工場の数は、小麦65工場とトウモロコシ245工場となっています。
メキシコの人たちの主食はトウモロコシ。その多くは言わずと知れたトルティーヤに加工され、1人当たり年間なんと80kgも消費します。またブラジルも一人当りの小麦の消費量が少ないですね。ではブラジルの人たちは、一体何を食べているのかと思ったら、意外にもご飯(Aroz)が主食の一つで、年間38kgものお米を消費しています。ただ小麦も年間50kg消費しています。またフィリピンも主食がお米であるために小麦の消費が少ないようです。ただ同じお米でも日本のそれとは違い、パサパサした長粒米です。
このように世界各地で主食の違いはあるにせよ、小麦はどんどん普及していているようです。これからも小麦粉製品をどうかよろしくお願いいたします。