#635 段階式製粉方法③・・・ロール製粉機と石臼の比較
ロール製粉機と石臼は、見た目はかなり違いますが、どちらも剪断力を利用して、小麦を挽きます。ギリシア時代に発明されたとされる石臼は、世紀の大発明でした。しかし19世紀にロール製粉機が登場すると、徐々にその主役の座を譲ることになります。以下、両者の共通点と相違点を簡単にまとめてみました。
共通点①・・・剪断力の利用
石臼は、下臼は固定したままで、上臼が上から見て左方向に回転します(蛇足ながら上臼は、古今東西を問わず必ず左回転するものと相場が決まっています)。臼には目が切ってあり、上臼が左回転することで、上臼と下臼の間には剪断力が発生し、中に落ちた小麦は引き裂かれる仕組みです。一方、ロール製粉機は、回転速度の異なる速差ロールを使用することで剪断力が生じます。つまりロール製粉機と石臼は、見た目はかなり異なりますが、どちらも剪断力を利用して小麦を挽きます。
相違点①・・・小麦が粉砕面と触れ合う時間の違い
ロール製粉機と石臼、どちらも剪断力を利用しますが、両者には決定的な違いがあります。それは、小麦が石臼もしくはロールに接している時間の違いです。石臼ではホッパーから投入された小麦は、落ちた直後から上臼と下臼に挟まれ、挽かれ始めます。そしてその後も、挽かれ続けながら、最終的に外に押しだされるまで、その状態が続きます。つまりかなりの時間、挽かれ続けるために、表皮は著しく挽きちぎられ細かくなり、その一部は胚乳部と混ざってしまいます。そうなると、小麦粉とその中に入り込んだ細かい表皮とを篩い分けることは困難です。一般に石臼挽きの小麦粉がくすんだ色調になるのは、これが主たる理由です。
一方ロール機の方は、小麦がロールと触れ合うのは、ロールのかみ合い部分の一瞬だけです。小麦はロール機で挟まれ、挽かれた次の瞬間には下に落ち、そのままの状態でシフターに搬送され篩にかかります。よって表皮の混入を最小限にとどめ、胚乳部分だけを取り出すのに都合の良い構造になっています。言い換えると、小麦は石臼とは「面」で長時間接し続けるのに対し、ロールとは「線」で一瞬、接するだけです。つまりロール製粉機の方が石臼よりも、胚乳部分をきれいに取りだすことができるのです。
相違点②・・・加工精度の違い
石臼は挽いた小麦を、篩いにかけ、網の目から落ちた粉(スルー)が上り粉となります。また残った粉(オーバー)は、再度挽き直して篩いにかけ二番粉となるか、そのまま飼料(家畜の餌)となります。つまり石臼製粉は、一発勝負で、細かなとりわけはできません。一方、ロール機は、ロール間の正確なギャップ調整が可能であるのに加え、ロール表面の加工も自由自在です。よって段階式製粉方式の正確な実践が可能となり、その結果50種類もの上り粉の取分けが可能となります。つまり加工精度は、ロール機の方が遥かに優れているといえます。
相違点③・・・処理能力の違い
能力については、石臼は一般には30~60kg/h、また大きいものでも200kg/h程度が限界のようです。一方、ロール製粉機は、台数は必要ですが、中規模製粉工場でも5t/h、また大規模工場になると20t/hもの処理能力があります。つまりロール機の方が100倍の処理能力があります。一部にロール機は、高速回転のために、加熱による品質の劣化を招くとの意見もあります。しかし現在のロール機は冷却装置を装備しているし、ロール間隙の調整をすることで、影響はほとんど見られません。何より世界中の小麦製粉の99%以上がロール製粉機であることが、その証左です。ただ蕎麦屋さんでは、蕎麦を石臼で挽いているところがありますが、これには理由があります。蕎麦はその粒の構造上、石臼での製粉がし易いこと、また挽きだち直後の風味が好まれるからです。