#284 イスパタ入りうどん

Aさんはとても研究熱心なうどん屋さんです。弊社のお客さんではありませんが、どういうわけか試作品ができる度に持ってきてくれます。これまでも「さぬきの夢2000」や「さぬきの夢2009」で打ったうどんを何度もいただき、そのうどん技術の高さは折り紙つきです。そんなAさんが突然やってきて、「これ試食してみまい!」と差し出されたのが、イスパタ入りうどんでした。私が「イスパタってなんですか?」と尋ねると、怪訝そうな顔つきで、「えぇ~~~~。そんなんも知らんのですか」という感じで驚かれてしまいました。

因みにイスパタとは、イーストパウダーの略で、お菓子の製造に使用される膨張剤のひとつです。ベーキングパウダーの仲間ですが、それよりもイスパタの方が生地を膨らませる力が強いという話です。ただ私は、お菓子を作ったことがないので断言はできません。で、Aさん曰く「イスパタを入れると、うどんの茹でのびが防止できるような気がするんやけど、ひとつ試してみてくれんやろか!」と試作品をもってこられました。でもやっぱり標準品と食べ比べてみないとわからないので、自分で試作することにしました。

小麦粉の2%(重量比)を水に溶いて使うのが、イスパタの標準的なレシピなので、それに倣い塩水(塩水濃度12%、加水率47%)にイスパタ2%を入れて生地を練りました。イスパタをいれた方は、白濁しましたが、標準品と比べ練り具合に大した違いはありませんでした。しかし熟成が終了した段階では、明らかな違いが生じました。なんとイスパタ入りの団子が大きくなっているのです(恐るべしイスパタ効果、その膨張効果に偽り無し!)。また画像からはわかり辛いですけど、イスパタ入りの方が、若干色が濃いめでしょうか。

普段なら約15分間ゆでるところですが、イスパタ入りは生地が明らかに膨張しているので、それだけ吸水性も大きいと考え、2分程度短縮しました。実際それでも、標準品と同程度にゆであがっている感じでした。そして肝心のうどんテイスティングですが、茹でのび防止がウリということなので、ゆで後3時間後に実施。2人でテイスティングしましたが、結論から言うと、明らかな茹でのび防止効果は見られませんでした。ただ理屈だけから言うと、イスパタ入りは生地が膨張した結果、それだけ多くの水分を取り込むため、却って茹でのびが進むような気がします。

肝心の食味ですが、イスパタ入りは、小麦本来の風味が少し弱いというか、小麦以外の雑味がちょっぴり感じられました。反面、標準品は小麦の素直な風味が感じられ、良好でした。またイスパタ入りは、団子と同様、うどん自体の色も、やや濃いめの仕上がりで、外観だけで判断すると標準品の方が、ウケが良さそうです。たった一度しか試作していないので、断言はできませんが、イスパタ入りうどんの特徴を独断でまとめるとこんな感じ:
・湯で時間がやや短い。
・色調がやや濃いめに仕上がる。
・小麦の風味がやや薄れ、雑味が増える(ような気がする)
。 
うどんに限らず、食品は何でもそうですが、素材だけで作ると風味豊かに仕上がります。しかしいつもできたて、作りたてを食べるわけにいかないので、保存性を高めたり、消費期限を長くしたりするためには(同じことか!)工夫が必要になります。つまり素材以外の添加物が必要になりますが、これが食味を低下させる要因になることは否めません。うどんも、小麦粉、塩、水だけで打つのが一番素朴でおいしいと考えます。