#615 香川の名店・こむぎ屋閉店その2

f615悲しみは突然にやってきます。こむぎ屋のご主人片岡さんから突然電話があり、「うどん屋、やめたっ!」っと。あまりに突然の、また一方的な廃業宣言に、ただただ茫然自失。少し前に奥さんが腰の手術で入院し、今回新たに身内に病人がでたので、「もうにっちもさっちも、いかんなやっ」と閉店を決断されたようです。それにしてもこれほど地域に愛されているお店が、こんなにあっさりと畳んでしまうのは、余りに惜しいとしか言いようがありません。

電話の後、お店にご挨拶に伺いました。ご主人のお話によると、最初は善通寺市で、共同経営者と讃州屋を立ち上げ、3年営業した後、高松市の栗林公園近くで「こむぎ屋」を6年間営業。その後、坂出に移り、現住所で「こむぎ屋」を開業し今年で32年となります。今年(2018年)の4月10日は、折しも瀬戸大橋開通30周年、つまりこむぎ屋さんは瀬戸大橋と共に坂出の歴史を刻んできたことになります。現在の営業時間は11:00~15:00ですが、当時はなんと25:00まで営業し、飲み屋の締めに、多くが利用し、私も何度かお世話になりました。

現在の営業時間は僅か4時間ですが、毎日6:00に入店し、仕込みを開始、また閉店後も片付けや翌日の準備で19:00までお仕事は続きます。昭和15年生れの大将にとってはかなりの負担になっていたのは、間違いありません。諸事情を勘案すると、今回の閉店もやむを得ないのかも知れません。お話の最中も、三々五々、お客さんの入店があり、発する言葉は、異口同音に「何でやめるんな?」っと。娘さん二人と入って来られたお母さんは、「中学生のこのお姉ちゃんがお腹の中にいるときは、毎日のようにここに通いました。この娘はこむぎ屋さんのおうどんで大きくなったようなもんです」っと。

f615_2個人的な好みは、「釜あげうどん」と「わかめうどん」。釜あげは、小麦粉の風味がダイレクトに伝わる逸品。またわかめうどんは、わかめが適温にまで温められ、そのわかめが出汁と絶妙に絡み、いつも出汁を飲み干していました。一方、人気メニューのツートップは、「鍋焼きうどん」と「天ぷらうどん」です。天ぷらうどんは、採算度外視の大きな海老を使用していましたが、余りの高騰に、残念ながら今ではメニューから外れてしまいました。鍋焼きうどんも手間暇考えると、決して原価率の良いメニューではありませんが、その人気ゆえ、外すわけにはいきません。

2011年当時の価格は、鍋焼きうどん700円(現在は720円)、てんぷらうどん600円。これだけ旨くてこの値段なので、その人気も当然です。そしてあるとき、究極の裏メニュー「天鍋うどん」に遭遇しました(#289)。てんぷら単体の価格が300円とすると、天鍋は1,000円ということになります。それにしてもこれだけの味とボリュームで、1,000円とは圧倒的なコスパです。しかし今となっては、返す返す残念でなりません。

こむぎ屋さんは、元々うどんツアーの対象となるようなうどん店ではありません。地元の人たちが通い、繁盛しているお店でした。しかしここ最近は、キャリーバッグと一緒に入ってくる姿も見かけるようになったので、県外客も増えたようです。うどんはもちろんのこと、出汁もそれに勝るとも劣らない出色の出来です。こういう雑味のない透き通った出汁感は、チェーン店ではなかなかだせるものではありません。大将が自分できちんと管理し、とらないとだせない味なのです。

坂出では、昨年末も兵郷製麺所が閉店し、さびしくなったとご報告したばかりです(#599)。彦江製麺所(2010年)、上原製麺所(2013年)、兵郷製麺所(2017年)、そして今回のこむぎ屋さん。どうしてこういう個性豊かな老舗のうどん店が、次から次と閉店するのか残念でなりません。こういった一連の流れをみていると、さぬきうどんの多様性が徐々に失われつつあるような気がして残念でなりません。