#868 うどんツーリズムについて思うこと

さて#867では、原先生によるうどんツーリズム分析をご紹介しましたが、ここからは個人的な感想となります。今後の関心はこのうどんツーリズムが持続・更に発展できるかどうかですが、問題点がないわけではありません。

【ツアー店と地元店】
ここではうどんツアー客に人気のあるお店を「ツアー店」、また地元密着型の繁盛店を「地元店」と呼ぶことにします。そして興味深い事実は、必ずしも「ツアー店」=「地元店」とは限らないことです。つまりパターンとしては、(A)地元では人気があるが、ツアー客はそれほどこない、(B)休日にはツアー客が押し寄せるが、地元客はほとんどいかない、(C)ツアー客にも地元客にも人気がある、云々です。うどんに限らず、飲食店の人気は、味、立地、サービスなどによって決まりますが、それでも中には辺ぴな立地で流行っているお店もあり、「ツアー店の成功法則」や「地元店の成功法則」は、「これだ!」と言えるほど単純ではありません。

【うどん店数の推移】
うどん店数は、ご承知のように漸減傾向で、直近では600店舗を割り込んでいます。特に製麺所タイプのうどん店は激減。弊社のある坂出市内に限っても、彦江製麺所(2010年10月)、上原製麺所(2013年5月)、兵郷(ひょうごう)製麺所(2017年12月)といった老舗の製麺所が相次いで閉店しました。製麺所そのものがなくなった結果、うどんコーナーを併設している製麺所タイプのうどん店は、今や絶滅危惧種と化しました。製麺規模が小さい製麺所は、効率が悪く、これも時代の流れかもしれません。坂出市では以前は10店以上の製麺所がありましたが、現在は1店のみ、しかも出荷量は毎年漸減していると聞きます。またお隣の丸亀市にあった老舗の製麺所・丸亀製麺㈱も、やむなく2023年5月に閉店。

【うどん店の経営形態】
うどん店の経営形態としては、家族中心の個人店舗と企業経営の法人店舗の2タイプがあります。家族経営のうどん店は規模が小さく、高齢化に伴い閉店するケースが目立ちます。一方、企業経営によるうどん店は、店舗規模が大きくなる傾向にあります。確認したわけではありませんが、うどん店の全体数は、漸減していても、「席数」全体でいえば、大きく変わってはいないと思います。更に最近では、うどん県内でも店舗展開する法人企業が何社もあります。多店舗展開することで、量産効果が働きコストダウンを図りながら、高品質のうどんの提供が可能です。

【うどんツーリズム持続可能性】
法人店舗は、高品質うどんを安定供給できますが、うどんツアーの対象店舗にはなりづらいと考えます。理由は、店舗そのものが画一的で、どの店舗のうどんも同じだからです。ツアー客は、もちろん美味しいうどんを求めていますが、美味しいだけでは満足しません。他のお店では得られないその店独自のうどんの味に加え、更にはそこでしか得られない体験、たとえば橋のたもとに立地するうどん店、田んぼを眺めながら立ってうどんを食べるうどん店、1時間しか提供していないうどん店などの非日常体験を求めて、うどん店をはしごします。つまりツアー客は、単にうどんの美味しさだけでなく、うどんツアーに「非日常的体験」を求めているのです。

よって法人店舗ばかりになると、利便性は高まりますが、うどんツアーの対象としての魅力は薄れてきます。いくらうどんが美味しくても金太郎飴みたいな同じうどんばかりになると、はしごする意味がなく、非日常的な体験を得ることもできません。さぬきうどんツーリズムを未来へと継承させるには、さぬきうどんの多様性を如何に持続させ、更に拡げていくかがポイントになると考えます。幸い讃岐のうどん業界も新陳代謝を繰り返し、最近は意欲に富んだ、若い大将も次々に登場しています。その大将たちがうどんツーリズムを更に発展させてくれるであろう、と否が応でも期待は高まります。