#005 「さぬきの夢2000」 Part4 ・・・ その利用方法
このように整理してみると、「さぬきの夢2000」にはデメリットの方が多いし、また悪口もたくさん書いてあるので分が悪そうですが、そうでもありません。問題はその活用方法にあると思います。製造現場では、作業性の問題点を理由に、「さぬきの夢2000」100%の小麦粉よりも、ブレンド粉を好みます。逆に営業サイドでは、その訴求性、ブランド・バリューの高さ故、100%使用を求めます。ここではどのように利用するのがよいのか、いくつか提案してみたいと思います。
(1)ブレンド粉の提案
「さぬきの夢2000」100%の小麦粉はその作業性において問題点を抱えていますが、これを従来のASWとブレンドすることにより、解決することができます。ブレンドすれば、内麦粉としてのイメージ、インパクトは若干薄れますが、全体として考えるとそれを補って余りある魅力的な小麦粉になると思います。名前よりその作業性を優先させる考えです。ブレンドすることによるメリットは次のように大きく三つあります。
まず作業性の向上があげられます。特に忙しいうどん店では、朝練り、つまりその日の朝に練ったのでは間に合わない程たくさん売れます。そういうところは、宵練りしておきますが、この場合「さぬきの夢2000」100%の小麦粉だと熟成時間が長すぎて、生地がだれるといった現象がおこります。ところが、ブレンド粉を使用すればこの問題点も解消されるのです。またうどんが切れやすいといった点も、これはたんぱく質含有量が低いために起こる問題で、でんぷんだけの力でうどんを切れずにつなぎとめておくことは無理なのです。そしてこの点に関しても、たんぱく質を多く含む小麦粉とブレンドすることにより、うどんが切れにくくなります。つまり、ブレンドするだけで作業性は格段に向上します。
また、二番目として品質の向上があげられます。これは「さぬきの夢2000」だけではなく「ASWの小麦粉」の品質向上のためでもあります。現在はASWがうどん用小麦の標準品として考えられていますが、このASWも10年前、20年前と比較すると少しずつ変化しています。具体的にいうとたんぱく質が以前に比べ多くなっています。オーストラリア小麦局も農水省も積極的には言いませんが、過去のデータを比較すると違いは明らかです。そしてはたんぱく質が多くなると、人によっては「うどんが少し硬いなあ」と感じる人がでてきます。私も時々そう感じます。何度もいいますが、この硬いというのと、コシがあるというのは少し意味が違います。
以前はASWだけだと、リキが弱いと感じる人が多く、別に強力粉を添加していましたが、最近のASWを見ているそういう必要性は全然ありません。むしろ状況は逆で、うどんが硬いと感じることが時々あるのです。しかし、ASWに「さぬきの夢2000」をブレンドすることによって、ASWの硬さがとれ、「さぬきの夢2000」特有の風味、旨みが備わった違ううどんができるのです。このソフトでまろやかな口当たり、そして風味、旨味の備わったうどんが、このブレンド粉の特長となります。
そして三番目に、品質の安定化があげられます。内麦故に品質の浮動は避けられないと、説明しました。狭い農地だから仕方のないことなのです。自然相手なのでどんなに丹精込めてつくっても、年によっては満足のいく小麦ができないこともあります。この場合、100%で使用すると品質の浮動が、そのまま小麦粉に100%反映されます。ところが、ブレンドすればその影響を軽減することができるのです。また供給量についても同様のことがいえます。収穫量が少なくても、ブレンドすればその分、多く販売できます。「さぬきの夢2000」はその稀少性をアピールすべきだとの意見もありますが、そのあたりは経営戦略とも関連して判断のビミョーなところです。しかし、希少性だけで商品は売れ続けるものではありません。商品自体に魅力がないと長続きはしないのです。
(2)「さぬきの夢2000」100%メニューの提案
ゆでているうどんを、水洗いせず、直接うどん鉢にとり(当たり前ですけど、ゆで湯を一緒にとらないと、うどんが伸びてしまいます、念のため)、つけ汁で食べるメニューを釜揚げといいます。釜揚げは、小麦の風味、うどんの味がよく感じられ、またゆであげ直後の一番おいしいタイミングでたべることができるので、さぬきの定番メニューのひとつです。ときどき、釜揚げと湯だめの違いを聞かれることがありますが、湯だめは茹であがったうどんを一度冷水で締め、玉取りしておいたものを再度温め直すので食感が違うし、どうしても釜揚げに比べると一歩劣ります。
また、一般的かどうかは知りませんが、釜揚げ風にうどんだけをうどん鉢にとり(今度はうどんだけです)、そこへ直接つゆをかけて食べるメニューも人気があります。これには三つの理由があります。ひとつは、一番おいしいタイミングで、風味のある、またもちもち感に富んだうどんが食べられること。二番目は、ゆで時間が短くて済むこと。うどんは水洗いして締めると硬くなるので、普通釜揚げの場合は、湯で時間が数分短くてすみます。つまり、待ち時間が少なくてすむのです。そして三番目は手間が省けます。一旦水で締めて玉取りして、また暖めるといったら、家庭ではなかなか面倒です。その点釜揚げ風なら至って簡単です。
なんで長々と釜揚げ、釜揚げ風メニューの説明をしたかというと、これらが正に「さぬきの夢2000」にピッタリのメニューだと思うのです。この理由は二つあります。ひとつは、常に最高の状態でうどんを味わってもらえること。つまりゆで置きしないので、ゆで伸びの心配がありません。というのは「さぬきの夢2000」はたんぱく含有量が少ない分、ゆでた後の劣化、つまりゆで伸びが通常のうどんよりも早くなりますが、釜揚げ風にするとその心配はありません。また、「さぬきの夢2000」特有の風味も釜揚げ風にすることにより最高の状態で賞味できるのです。
もうひとつの利点はたんぱく質が少ない分、ゆで時間が多少でも短くなることです(でもほんの気持ち程度かなあ)。釜揚げの場合は通常より、ゆで時間が短くなりますが、「さぬきの夢2000」の場合は、更に短くなります。このように釜揚げ風メニューにすることで、たんぱく質が少ないことが逆にメリットになるのです。少し細めのうどんなら注文を聞いてから釜に放り込んでも7~8分で調理可能で、この程度の待ち時間であれば専門店なら十分に我慢してもらえる時間でしょう。
特にこういったメニューは一日に何百人も入るようなセルフの店よりも、ゆったりと召し上がってもらえる落ち着いた雰囲気の専門店の方が断然いいように思います。これにも当然理由があります。「さぬきの夢2000」100%のうどんは、上手に作るのが難しいというよりも、その作業条件が面倒なので大量につくるのには適していないのです。加水は約46%、熟成時間は長すぎるとだれるので宵練りはダメ等々、通常のASWのうどんとはかなり条件が違ってきます。つまり、ASWのうどんのレシピをAとすれば、「さぬきの夢2000」うどんには全く異なるレシピBが必要になってきます。忙しいセルフの店で、この両方を同時にこなすというのはかなり面倒、というより現実的にいって無理ですね。
ということで、「さぬきの夢2000」うどんは、できればゆったりとした落ち着いた雰囲気の専門店で、釜揚げもしくは釜揚げ風メニューで提案するのがオススメだと思います。「さぬきの夢2000」は良くても悪くても、内麦の特徴を備えています。日本で収穫された小麦だから当然です。そしてせっかく、すばらしい品種ができたのですから、できるだけその特長を生かし、また最高の状態で召し上がっていただいて、本当のさぬきうどんを全国の皆さんに楽しんでいただきたいと思います。