#025 小麦粉の賞味期限と保存方法

(1)小麦粉の賞味期限
お店に並んでいる小麦粉の賞味期限を見ると、大抵、製造後1年間になっているようです。もちろん、保存状態さえよければ、2年でも3年経っても、食べることはできると思います(賞味できるかどうかは別ですけど)。ただ、実際にはそんなに長期間保管しておくと、最初にあった風味はとんでなくなってしまいます。古くなってしまうと、風味、艶、旨味などが消えてしまい、おいしいうどんはできません。注意していただきたいのは、「どんなに良い小麦粉でも、時間が経てば良い小麦粉ではなくなる」という事実です(私はそう思います)。

たとえば、そばを考えてみてください。当たり前のことですが、そばは挽いて時間が経ったものよりも挽きたての方がいいと、誰もが思います。老舗のそば屋さんでは、玄そばの状態で保存しておき、そばを打つ前に、石臼で挽くところもたくさんあります。それは挽きたてが一番いい風味のそばを食べる方法だからです。コーヒーもそうです。コーヒーをたてる前に、挽いたコーヒーが、一番香りがいいのです。そしてそばもコーヒーも粒の状態では、長期間保存できますが、挽いた瞬間から劣化が始まります。

小麦粉も同様に考えることができます。そばやコーヒーほどの強烈な香りではないので、最初は意識しないとその違いははっきりとはわかりません。しかし、挽いた瞬間から、劣化が始まり時間と共に小麦の風味はだんだんと薄れ、またグルテンももろくなっていきます。つまり、粒のままではいつまでもその状態を保つことができますが、一旦、粉になって空気にさらされてしまった時点から、酸化が始まり、徐々に品質が落ちていくのです。特に高温多湿の夏季は、小麦粉にとって一番厳しい時期で、劣化が早く進みます。それに加えて、うどん屋さんでの保管場所といえば、大抵厨房の近くにあるところが多く、条件は一層厳しくなり小麦粉が痛みやすくなります。

でも、一方では「小麦粉には熟成が必要じゃないか」という意見もあります。この主たる理由は、製粉したばかりの小麦粉は、酵素活性が強く、不安定な状態にあるので、使用する前に熟成期間が必要であるというものです。確かにその通りですが、現在では製造工程中において、強制的に多量の空気にさらされ、熟成が進むので小麦粉の状態では、以前ほどの熟成期間は必要ないとも言われています。いずれにしても、「小麦粉が古くなって、おいしいうどんができない」ことはあっても、「小麦粉が新しすぎてうどんができない」という声は、この辺りではまだ聞いたことは、ありません。

最初はどれも同じように見える小麦粉も、だんだん慣れ親しんでくると、挽きたての小麦粉は袋からとりだしたときに、ふんわりとして、小麦の風味が感じられるはずです。またうどんにして、釜入れしたときにも、小麦の香りがします。そして、淡いクリーム色を帯びた、艶のある、弾力に富んだ、そしてぷりぷりしたうどんができるのです。このようなうどんを打つためにも、できるなら製粉された後、夏場は1ヶ月、冬場でも2ヶ月を目安に使い切ってもらえるようにお願いしています。

(2)保管場所
小麦粉は生きています。同じ銘柄の小麦粉でも、季節によって水分も異なります。これは気温、湿度の関係でベストの製粉条件が異なるからです。またたとえ同じ種類の小麦を原料に使用していても、ロット毎にビミョーに違うこともあります。つまり、厳密に言えば、同じ銘柄の小麦粉であっても、実際には少しずつ異なります。このように考えると小麦粉は、食品というよりも、むしろ農産物とか生鮮食料品と考える方がいいのかも知れません。

よって、保管場所は高温多湿を避ける、つまり涼しくて、湿度の少ないところになります。また、臭いもつきやすいので、気をつける必要があります。業務用であれば、高温多湿になりやすい厨房の中よりも、別の環境のよい部屋で、また直接床に置くのではなく、スノコなどを敷いて、空気の通りをよくしてやると、品質が保持できます。

では、究極の保存方法として、挽いたコーヒー豆と同じように、密閉してフリーザーで保管すれば鮮度を長く保持することも可能です。でもそこまですると、取り出した直後は小麦粉が冷えていて、水回しとか熟成がうまくいかないので、それはやりすぎだと思いますけど。