#028  ポジティブリスト制について(残留農薬等に関する安全性)

少し堅いテーマになりますが、小麦の安全性にかかわる分野ですので、少し辛抱してお付き合いください。最近、農作物などに含まれる残留農薬については、特に関心が高まっています。本当は無農薬で栽培するのが理想ですが、品質、コストなどを考えれば現実的ではないし、すべて無農薬にすることは、そもそも物理的には不可能です。それはともかく、この度、農作物などに含まれる残留農薬の安全基準が大幅に変更されるので、簡単に説明しておきます。

話を簡単にするために現状は次のようであると仮定します。

1.いま世の中に10種類の農薬しかない。
2.このうち、小麦の栽培にはせいぜいA、B、Cという3種類の農薬しか使用されない。
3.残りの7種類は、小麦以外の農作物の病気、害虫などの防除が目的で、小麦にはまず使用される可能性はない。

このとき小麦に含まれる残留農薬を調べるときに、皆さんはどの農薬を検査すればいいと思いますか?多くの方は、「A、B、Cの3つの農薬だけに対して行えば大丈夫だろう」と考えるかもしれません。また、「10種類すべて検査しないと安心できない」という用心深い人もいるでしょう。このとき前者の方法をネガティブリスト制、後者をポジティブリスト制といいます。つまり、言いかえると次のようになります。

【ネガティブリスト制】
使用される可能性のある農薬リストをつくり、そのリスト内のそれぞれについて残留基準を決める。そしてリストの中の農薬がすべて残留基準以下の場合のみ、流通・販売される。

【ポジティブリスト制】
上記の条件に加え、リストに載ってない農薬についてはすべて「一律基準(0.01ppm)」のもののみ流通・販売される。

当然、ネガティブリスト制よりもポジティブリスト制の方が、断然条件が厳しくなります。現行はネガティブリスト制が採用されていますが、平成15年5月の食品衛生法の改正により、ポジティブリスト制の導入が決定されました。そして、平成17年11月29日に関係法令が公布され、いよいよ平成18年5月29日から施行、適用されることになりました。一見すると、ネガティブリスト制で大丈夫のような気もしますが、最近は世界中で様々な農作物や食品が行き来するようになり、状況はすこしずつ変わってきています。そこで、「残留農薬に関する基準を、もっと厳しくしましょう」というのが今回、改正の趣旨です。

例えば、日本が農作物を輸入している国と、日本とでは、農薬に対する規制基準、また使用農薬が異なっているかもしれません。すると残留農薬の検査項目を増やさなくてはなりません。また、小麦を耕作している畑のすぐ隣に、トウモロコシ畑があり、そこで防除に使用された農薬が風に吹かれて、可能性は小さいけれど、小麦畑に飛んでくるかもしれません。トウモロコシの防除には、小麦には使用されない農薬があるかもしれないし、そうなるとネガティブリスト制では不十分ということになります。このような隣地から汚染をドリフトといいます。つまり農薬が横滑りしてしまうわけです。一言で言うと、現在では様々な農薬汚染の可能性が考えられるので、このような背景を考慮し、ネガティブリスト制からポジティブリスト制への移行が決まったわけです。