#040 足踏み工程
一般に手打ちうどんは、製麺機械で作ったうどんよりも美味しいと言われています。またそばに比べて作るのも簡単です。それはそばのように薄く延ばしたり、細く切ったりする必要がないからです。また、小麦粉に含まれているねばねばしたグルテンのおかげで、そばのように切れるのを心配する必要がありません。よって、初心者でも比較的簡単においしいうどんを打つことができます。
水回し、練り、そして熟成さえきちんとできれば(といってもほとんどになります。ごめん)、おいしいうどんは保証されたようなもんです。「水回し」とは小麦粉と塩水を均一に混ぜ合わせることで、「混合」ともいいます。つまり、小麦粉の隅々まで塩水を行きわたらせるのが目的なので、理想は少しずつ水をかけながら、混ぜ合わせそぼろ状にすることです。でも、うどん店のように一度に沢山の小麦粉を練るときは、「どばっ」とかけるのを見かけることもあります。
「練り」は「水回し」の終わった生地を、ひとつの塊にして捏ねる作業で、さぬきうどんの場合、これは「足踏み」でおこないます。超高級うどんとして有名な、秋田の稲庭うどんは、すべて手作りなので、この工程ももちろん、手作業ですが、これをすべて手でこなすのは、本当に大変なことです。この「練り」は別名「捏練(ねつれん)」ともいいますが、簡単にいうと「捏ねる」ことです。では、「練る」と「捏ねる」はどう違うのか?どちらも似たようなもんですが、雰囲気としては、「捏ねる」方が、いかにも「ぎゅっ」と強く押している感じがします。
難しくいえば「捏練」、普通に言うと「練り」、そして簡単にいうとこの「足踏み」工程によって、網目状のグルテンが縦横無尽に形成されます。グルテンは、小麦粉に含まれるたんぱく質が水と混ざりあうことで作られる、「ねばねば」した小麦特有のたんぱく質で、これがうどんのコシになります。ゆでる前は「ねばねば」しているだけですが、加熱されると、うどんの中で「びしっ」と固まります。つまり、建物に例えると、鉄筋のような働きをします。
グルテンは、鉄筋によく例えられますが、実際に鉄筋のように作用するのは、加熱後です。加熱前は、粘弾性があり、ゆでる前のうどんが切れないでいられるのはこのグルテンのお陰ですが、この状態では引っぱると伸びたり、縮んだりします。ゆでて初めて、固まり鉄筋のイメージに近くなります。
で、この「足踏み」が少ないとグルテンが十分に形成されず、強度不足になります(どっかで聞いたような?)。うどんを建物に例えると、その中の鉄筋がグルテン、そしてコンクリートがでんぷん質になります。グルテンが少ないと、中の鉄筋の数が少なかったり、細かったりするので、噛んだときに十分なコシがでません。つまり、歯ごたえのないうどんになります。また、隅々まで鉄筋が入っていないので、ゆでている途中、角が溶けて、うどんの角がきれいにでないこともあります。
更には、グルテン不足は、単にうどんがきれいにできないとか、コシがないとかといった食感にかかわるだけでなく、うどんそのものの味にも影響します。十分に練れてないうどんは、味もよくないのです。食べていて飽きのこないうどんというのは、単にコシがあるだけではなくて、うどんの中にでんぷん質のほのかな甘みを感じることができるものだと、個人的には思っています。このように、手打ちうどんにおける「足踏み」は重要な工程です。