#044 試食
先日、ある食品メーカーの方とお話しました。何の業種か忘れましたけど、彼ものすごく太ってるんです。確か、調理麺をつくっているような、そうでないような・・・(う~ん、思い出せん)。最近、物忘れが始まった、というより最初から覚えていない、という方が正解、というかそれさえもはっきりしないような・・・。それはともかく、以下はそのときのやりとり:
彼:「今はかなり肥えているけど、これって商品を試食しすぎたからなんですわ」
私:「でも、試食って一口、二口じゃないんですか?」
彼:「いいや!どの商品も全て完食するんです!」
私:「どうして全部食べるんですか?」
彼:「やっぱね、全部食べてしまわんと、実際に買って食べた人の気持ちっていうか、食べた感じがわからんのです。一口、二口ではだめなんですわ」
私:「なるほど」
これを聞いて、妙に得心したところがありました。実は私自身もこれまで、「少し食べただけじゃ、よくわからんな」とは思っていました。例えば、表皮に近い部分の胚乳まで挽きこんで製粉した小麦粉、簡単に言うと2等粉、3等粉で作ったうどん。これは、灰色でくすんだうどんで、一見してそれとわかります。これを一本だけ食べると、「なかなか小麦の風味があっておいしいね」とか「うどんに小麦の味がするね」といった好意的な感想も耳にします。でも、一玉完食する頃には、「小麦の匂いが強すぎるね」とか「うどんがざらざらしているので、喉がちょっといがいがする」みたいに変化することもあります。
逆に最初は味がないように思えても、食べ進むにつれ、小麦の風味がほんのりと口の中に広がるものもあります。また、最初は「すごいコシのうどんやなあ、おいしいね」で始まったのに最後の方は「いつまでたってもうどんの味がしないし、ゴムみたいな感触なので、だんだん顎が疲れてきた」みたいなうどんもあります。つまり最初と最後では、評価がかなり異なることがあります。更には、「うどんだけ」と「つゆが絡んだとき」で評価がかなり変わることもあります。
またこれとは別に、これまで味の評価をする場合は、「少なくとも3回は食べてから評価しなさい」とも言われてきました。これはもちろんその場で3回御代りしなさいということでは、ありません。人間、日によって体調が変わり、味覚が変わることもあります。また環境、その他の要因で評価が違うかもしれません。よって、最低3回は別々に食べてみないと、わからないということです。よって更に正確を期するとなると、それぞれの試食においても一食丸々食べないと、ダメだということかも知れません。
さて、さぬきでは「うどん品評会」なるものが時々開かれます。当然食味試験をして、優劣を競うわけですが、これは実に大変な作業です。というのは一堂に会した何十といううどんを一度に味わって評価するんですからね。何十といううどんを、一度に、しかも一回きりしかチャンスがないんです。当然、ひとつのうどんについては、一本か二本しか味わえません。でも、一通り試食すると一玉や二玉は食べたことになるんですね。
実際、あるうどん試食会に参加したことがありますが、自信をもって比較できるのは、精精3つか4つまでで、後ははっきり言って惰性です。それ以上になると勢い、見た目のきれいなうどん、色の冴えたうどんに得点が入るのはやむを得ません。また、評価の基準となる二大要素は「食味」と「食感」ですが、どうしても「食感」重視になってしまいます。一本、二本口に入れたところで、本当の味などなかなかわからないように思います。
話は、戻りますが、本当の味の評価はやっぱり一玉完食が最低条件です。何十種類ものうどんを、きちんと食味試験するなら、サッカーのワールドカップみたいに予選リーグで4種を評価し、後はトーナメント方式の1対1で評価するのもひとつの方法かもね。いずれにしても、「大量のうどんを食べずして、正しい評価はできない」のは事実だと感じます。だからね、品評会に落選しても、「ひょっとしたら本当はおいしいかも知れない」という可能性は残ります。