#046 「さぬきの夢2000」全粒粉パン

先日、京都の T さんから、突然「『さぬきの夢2000』の小麦がほしいんですけど、どこかにないですか?」との問い合わせが、封書にてありました。「今時、鉛筆書きの手紙もめずらしいなあ」と思っていると、追伸として「私はこの8月で85歳になります。パソコンが使えませんので、鉛筆書で失礼します」とのことでした。お手紙からの T さんのプロフィールは次のような感じ。
●ずっと昔、ドイツで食べたブレッチェンというパンの旨さが忘れられず、その後パンづくりを始めた、パンの研究者。
●My 石臼で小麦を全粒粉に挽き、そして My 石窯でパンを焼いている。
●好みは「ふわふわ」ではなくて、リーン (lean) なしっかりとした、全粒粉のパン。
●ご自身曰く「現在の製法はいつの間にか到達したもので、パン屋の常識ではなく無手勝流」。

小さく見えるけど直径20cmはあった↓

で、お便りを頂戴したその日は、たまたま当社でも、丁度「さぬきの夢2000」を製粉する前日で、手元にたくさんの小麦がありました。それに「ひょっとしたら『さぬきの夢2000』パンが食べられるかも」という不純な考えに目が眩み、サンプルとしてその日の内にお送りしました。そしたらなんと数日後、 T さんから電話があり、「パンを焼くのでお送りします」とのことでした(やっほー)。

そして数日後、期待通り「さぬきの夢2000」パンが到着しました。見ての通り見事なパンです。持ってみるとズッシリとして、切るのが申し訳ない気がしましたが、記念撮影後は、あっさりと口の中に入ってしまいました。ひょっとしたら、本邦初公開の「さぬきの夢2000」全粒粉パンかも。実はね、言われるままに小麦を送ってはみたものの、「本当に『さぬきの夢2000』でちゃんとしたパンができるのか?」と半信半疑でした。理由は「さぬきの夢2000」に含まれるグルテンが、他の小麦粉に比べて少ないからです。パンづくりは素人ですが、膨れるのにグルテンが必要なくらいは知っています。

この後、あっという間になくなった↓

でも写真の通りリーンできれいなパンが、できているではありませんか。口にいれてしばらく「もぐもぐ」、顎がだるくなるくらいの感触を楽しんでいると、だんだんと甘味が拡がってきます。焼かずに、また何もつけなくても、甘くて噛みしめのある風味たっぷりのパンです。うどんもそうですけど、美味しいものは黙っていても、自然と次の手がでています。食べ終わった後、口の中が引っかかるので、何だろうと思ってみてみると、なんと石臼で挽ききれなかった、小麦の表皮でした。なんと健康的なパンでしょ。

T さんご自身の評価は、「他の内麦にくらべて甘みが強い」とのことでしたが、それはこちらで試食した感想とも一致しています。そもそも、「さぬきの夢2000」の特長の一つは、そのでんぷん質の甘みでしたが、それはパンに加工しても十分に生かされることがわかりました。いただいたパンを食べながら、次の二つのことを思いました。
■ ふわふわのパンもおいしいけど、風味、噛みしめの点では全粒粉の方が、断然勝っている。そして何より一物全体食の考え通り、栄養バランスがとってもよい。うどんもできれば全粒粉を使用したいが、食感などの理由で実現が難しい。実際、これまで何度か全粒粉で試作してみましたけど、小麦そのもの味が「風味」というよりも「雑味」となって、なかなか納得できる味に仕上がりません(今後の課題)。
■パンでさえこれだけ立派なものができるのだから、うどんだってうまくできる筈だ。ときに「さぬきの夢2000」は低タンパクであるが故に作業性の問題点を指摘されるけど、このパンを見ていると、「丁寧につくればうどんだって問題なく作れるはずだ」という思いを強くします。というか、昔の人はみんな、こんな感じの麦でうどんを打っていたんです。