#050 ある手延べそうめん製造者

お盆の前に挨拶回りにいきました。小豆島は言わずと知れた、小豆島手延そうめんの産地で、当社のユーザも数多くいます。小豆島の手延そうめんはおいしい、これは紛れのない事実です。しかし、手延そうめんを含む、乾麺の消費量は、このところ少しずつ減り続けています。理由は、「ゆでるのが面倒」とか「つゆがついていない」などといったものです。つまりおいしくても手間暇かかる食品は、だんだんと敬遠され、時代は今やオールインワン(何でもかんでも全て揃っているもの)、しかも簡単に食べることができる、加工食品全盛の様相です。

じゃあ、手延そうめん製造者は、どこもかしこも左前になっているかというと、そうでもないんです。元気で悠々自適にやっているところがいくつもあります。例えば、 H さん。注文をこなすためにお盆の直前まで製造するそうです。 H さんと話していて、なんでよく売れるのか、その一つの理由がわかりました。以下 H さんとのやり取り:

H さん:「7月の最初にもろた粉、ちょっとそうめんの味が違うような気がして、電話したんや」

私:  「原料小麦の配合、加水率、歩留まりなどすべて同じなので、同じ小麦粉の筈なんですが。」

H さん:「私(わし)なあ、毎日自分で作ったそうめん、3把 (150g) ずつゆでて食べるんや。そうやなかったら、お客さんどんなそうめん、食べとるかわからんやろ」

私:  「もちろん、小麦粉だって生き物ですから、季節によりある程度性質が変わり、それがそうめんに影響することも考えられますね。またそうめんだって、 3 月に作ったものと今日作ったものでは、味全然違いますよね」

H さん:「そうなんや。ほなから、この前も味が違うなと、思うたときゆで時間を変えたりして、何度か試食してみたんや」

「なんでそうめんの味が変わったのか」それはともかく、毎回食べていれば、自分がテイスターなので、お客さんに間違った商品がいくことはありません。組織が大きくなると、専門の検査員がそうめんのできばえを検査しますが、これは主として目視検査で、食味試験まですることはありません。また、できたとしても多くの製造者がいるので、そのすべてを試食するのは現実的ではありません。だから手作業の多い分野では、組織が大きくなると、食味試験の重要さがわかっていても、なかなか実行できないもどかしさがあります

みかんだって、おいしそうに見えても甘くないのもあるし、やっぱり食べてみないことには、味はわかりません。「おいしそうにみえる」と買うかもしれませんけど、実際に食べてみて、「おいしくなければ」次から買うことはありません。うどん、素麺だって同じです。おいしそうに見えなければ、買ってもらえませんが、次の購買につながる決め手は、それがおいしいかどうかにかかっています。

また同じく個人で手延そうめんを製造販売している N さんは、既に夏休みに入っていました。 N さんは以前健康上の理由で、小豆島に U ターンし、それから手延そうめんの製造販売を始めました。今では固定客がつき、傍目には順風満帆、悠々自適の生活にみえます。長い夏休みは、毎日、早朝からゴルフにでかけ、昼過ぎには帰ってきて、のんびりしている(ように見えます)。もちろん、合間で機械の整備などもしていますが、それでも生活がゆったり見えます。

こういう人たちの例を見ていると、手作業の多い手延そうめんは、個人製造者に適している業種かもしれません。同様に、今回のさぬきうどんブームにしても、その原動力は既存の老舗とか、大手製麺業者というよりも、どちらかと言えば、規模は小さいながらも、家族単位で特徴をだしてやってる、うどん店が主役でした。どの業種も大企業全盛の時代で、寡占化が進んでいますが、一方では対極のところでがんばっているところも多くあるので勇気づけられます。しかしね、装置産業といわれる製粉業界で、果たしてこれが通用するのかどうか、とっても不安になります。