#051 さらばロール製粉機
製粉産業は装置産業とよばれています。理由は、小麦粉をつくる過程で数多くの機械装置が使用されているからです。小麦からその胚乳部をとりだす、たったそれだけのことなのに、なんでそんなに多くの機械が必要なのか不思議でしょう。それに昔は、石臼と篩(ふるい)だけで小麦粉をつくっていたので、なお更理解に苦しむところです。でも、現代の製粉工場は、どこも製粉機械で溢れかえっています。
数ある製粉機械の中でも特に重要とされているのが、ロール製粉機(以下、ロール機)です。ロール機とは、簡単に言うと一対の鉄でできた円柱状のロールのかみ合い部分に、小麦またはストックを通過させることにより、小さく砕いてやる機械のことです(う~ん、これだけでは全然わからんなあ)。ストック (stock) とは、小麦を砕いたもので、まだ小麦粉までには小さくなっていない半製品、つまり加工途中の小麦を指します。工場内には、何十台というロール機が稼動しています。どれも一見同じロール機にみえますが、それぞれが違う大きさのストックを担当しています。
もちろん数少ないロール機で製粉することも可能です。極端に言えば、昔のように、製粉機(粉砕機) 1 台で、一気に粉にしてもいいのです。しかし、一度に小さくしてしまうと、表皮の破片が小麦粉の中に入ってしまい、小麦粉の品質が落ちてしまいます。そうなると、うどんにしたとき、色がくすんだり、のど越しがざらざら(いがいが?)したりして、消費者のウケが良くないのです。ですから最初は、小麦を大きく割ってやり、それを篩って、粒度別に分けてやります。
次にそれぞれ粒度別に、違うロール機で再度、小さくします。基本はできるだけ同じ大きさのストック同士を集めて、それを少しだけ小さくして篩い、また次のロール機で処理をする、といったことを繰り返します。このようにして一粒の小麦は、製粉工場にもよりますが、30~50種類の製品に取り分けられます。そして最終的にそれらを適当に混ぜ合わせながら、色々なグレード(等級)の小麦粉をつくるのです。
このようにロール機は製粉工場の心臓にあたるものですが、昔は、ロール機が今以上に高価で、中小製粉会社はなかなか新品を買うことができませんでした。で、大きな製粉工場に、新しいロール機が入ると、そこであぶれたロール機が中古市場に出回り、程なくどこかの中小製粉に引き取られるというのが、一般的なパターンでした。当社も例に漏れず、つい最近までは新品として買ったのは、10台中3台のみで、残り 7 台は他の製粉工場から譲りうけたものです。
ただ、ロール機といっても、その重要度というか貢献度はそれぞれ違います。やっぱり、最初が肝心、つまり最初の数台のロール機が特に重要で、うどん用の小麦粉となる1等粉の処理はこの辺りであらかた勝負がついてしまいます。だから必ずしも全てのロール機を同じものにする必要はありません。でもやっぱり、新しい製粉機の方が良いのには間違いなく、何より見ていてすっきりして気持ちがいいのも事実です。実際、大手の製粉工場はすべて同じロール機で、統一されています。それに比べ当社は、数種類の製粉機が混在し、でこぼこしています。ちなみに当社も遅まきながら、昨年来一部ロール機の更新をおこない、現在は次のような構成になりました。
ロール機の構成 | ||||||
メーカー
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製造年
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入手方法
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それ以前
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2005.8月
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2006.8月
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1 | B社 | 2006年製 | 新規 |
—
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—
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2
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2 | B社 | 2005年製 | 新規 |
—
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2
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2
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3 | B社 | 1978年製 | 新規 |
3
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3
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3
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4 | MG社 | 1971年製 | M製粉→当社 |
2
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2
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2
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5 | MJ社 | 不明 | M製粉→当社 |
1
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1
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1
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6 | MJ社 | 不明 | C製粉→K製粉→当社 |
4
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2
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昨年更新前の、当社の最新鋭機は 1978 年製で、今年 28 歳になりました。 28 年というとびっくりするかも知れませんが、製粉の世界ではそんなに珍しいことではありません。他に 1971 年製が 2 台、そして年齢不詳のものが 5 台。それらは製粉会社 2 社を渡り歩いて当社にきたもの、また火災でお役御免になりもらわれてきたものなど、経歴はさまざまです。
そして昨年 8 月に 2 台の更新、そして今年も 8 月に同じく 2 台と、これでようやくロール機の更新も一段落つきました。新品のロール機は、当然のことながら、一番重要なポジションに配置されます。すると、それまでそこにいたロール機は順次、下(しも)に移動し、一番下にいた古いロール機はかわいそうですが、スクラップにされてしまいます(泣)。
ロール機の更新を通じて、改めて2つのことを強く感じました。
①確かに新しい機械の方が良いに決まっています。しかし、それを生かすも殺すも使う人次第です。機械はどんなに古くても、ちゃんと点検管理してやれば、いつまでも働いてくれるし、逆に最新鋭の機械でもなにもせずに放っておくと、直ぐにだめになります。
②昨日までばりばり製粉していたロール機が、廃棄処分とはならないでも、第一線から外れるのは、とっても悲しい。ものには寿命があるとはわかっていても、なかなか割り切れないところがある。でも一方では、「28年もの間ずっと働き続けてきたので、そろそろ楽な位置に移してあげるのが、いいのかなあ」との思いが交錯します。でもね、実際新しいロール機の設置が無事終了し、「がぁ~」と大きな音をだしながら動いているのをみると、「これでよかったんだ」と得心しました。