#054 うどんの色と灰分の関係
うどんの主原料である小麦にはいろいろな種類があります。よく使われているのは、オーストラリア産のASWですが、最近は香川発「さぬきの夢2000」も聞かれるようになりました。また同じ小麦であっても、製粉方法(挽き方)によって違う小麦粉ができます。その小麦粉の性質を表す特性にはいろいろありますが、一度にごちゃごちゃ言うと、ややこしくなるので、ここでは最も重要な性質のひとつである「灰分(はいぶん)」を紹介します。
灰分とは字の通り、小麦粉を高温で燃やしたときに残る「灰」のことです。といってもその量は僅かで、うどんに使用されている小麦粉は、ほとんどが 0.35 ~ 0.40 %のものです。これは小麦粉 100 gを焼くと、 0.35 ~ 0.40g という実に僅かな量です。「 0.35g でも 0.4g でも、大したことないじゃん」と思うでしょ。でもこれは、この二つの小麦粉で作ったうどんを並べて、 10 人に聞くと、 10 人とも「こっちが黒いかな」というくらいの違いです(当然、灰分の多い粉が黒くなります)。
灰分が 0.5 %くらいになると、普段うどんを食べ慣れている人は、このうどんだけを見ても、「ちょっと、黒いなあ」と感じる程度の色あいになります。灰分が 0.7% になると、そばと見間違えるくらいの黒さになり、まずうどんに使用されることはありません。この程度の小麦粉は2等粉に分類され、そばのつなぎ粉や、お煎餅になります。
ところで、この灰分の実体は、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラルです。これらのミネラルは小麦の中に平均して分布しているのではなく、中心部分が一番少なく、表皮に近づくほど多くなります。小麦全体の灰分は 1.2 %程度ですが、中心の胚乳部分だけをとりだすと、灰分が 0.30 ~ 0.35% のきれいな小麦粉をつくることも可能です。一般に言われている小麦粉のグレード(等級)は、この灰分値の小さい順に、特等粉、 1 等粉、・・・となります。ややこしいですが、「グレードが高い⇔灰分が低い」と覚えてください。
で、ここで気になるのは、「ではグレードの高い小麦粉の方が、おいしいうどんができるか?」どうかです。色あいはもちろん、舌触り、のど越しなどの食感は、グレードの高い小麦粉の方が優れています。グレードが低くなり、表皮の断片が入ってくると、表面がざらつき、食べても喉が「いがいが」してあまりおいしいとは感じません。例えば、灰分が 0.70% を超えると、うどんが真っ黒になって、明らかに「これはマズいなあ、やばいなあ」と感じます。
じゃあ、「グレードが高いほどいいのか?」というとそうでもないんです。確かに見た目は最高にきれいなうどんができます。でも、「小麦の風味に劣る」とか「味があまりしない」と感じる人がでてきます。というのは、うどんの味そのものは、表皮に近い胚乳部分にも影響されるからです。だからグレードの高い方が良いけれど、しかし高ければ高いほど良いというものでもありません。まあ、常識的に判断すると、灰分値で 0.35 ~ 0.50 %あたりのものがうどんの対象になります。つまりこのあたりはグレーゾーンで、味、風味、それとも食感のどれを優先するかによって好みが分かれてきます。皆さんもうどん屋さんでうどんを食べるとき、「これはどのくらいのグレードの粉を使っているんだろう?」と想像してみてください。
あぁ、それと同じ灰分でも、同じ色にならないこともあります。まず、原料の小麦が違う場合。一般に国産小麦の方が、色がくすんで見えることが多く、麺用によく使用されるオーストラリア小麦は、明るい冴えた色になります。また白いのもあれば黄色っぽいものもあります。黄色っぽく見えるのは、小麦粉に含まれているカロチノイドという色素のためですが、これは空気に触れ酸化されることにより、だんだんと白くなります。つまり淡黄色は、新鮮さの証ともいえます。