#056 スイス製粉学校
チューリッヒから車で東へ約 1 時間走ったところに、古都ザンクトガレン (St.Gallen) があります。ここには多くの観光名所があり、カンジのいいところなのでスイスの人たちにとっても住みたい街として人気があります(と聞いた)。下手な紹介よりも、詳細はこちらをどうぞ(⇒ https://www.myswiss.jp/area/02/stgallen.htm )。そして St.Gallen 駅のすぐ裏に、一般の人は誰も知らない、そしてまた興味もないスイス製粉学校( Swiss Milling School St. Gallen, 以下 SMS )があります。
SMS は創立が 1957 年で、来年はめでたく 50 周年を迎えます。昨年は世界 19 カ国から 27 人の生徒が集まり、創立史上初めてとなる女性の製粉技師が誕生しました。それも一度に2名、出身はスイスとレバノンです。現在1コースの期間は 5 ヶ月間で、一年に同じ内容で英語とドイツ語それぞれ 1 回ずつやります。現在、世界中からの留学生を受け入れるため、また英語が公用言語としての役割を増しているので、英語コースの方が、人気があるようです。以前は一般の基礎知識から専門の製粉までみっちりと学習する 10 ヶ月コースを開催していましたが、これだと企業にとっての負担が大きいというので、最近 5 ヶ月コースを開講しました。
SMS は純然たる独立した私立学校ということになっていますが、実際にはウッツヴィル (Uzwil) に本社のある世界最大の製粉機メーカー B 社の、援助なしには運営は不可能です。学校には B 社の機械が並び、生徒たちは定期的に、ここから 30 分程のところにある B 社の研修用の製粉工場に出向いて、製粉の実地研修をします。生徒たちにすれば、現代製粉の最先端技術を習得することがで きるし、また B 社にとっても効率的な営業活動 ができるとあって、両者にとってプラスということになっています。
B 社の Web サイトを覗いてみると、 SMS に匹敵する製粉学校は、次の2つしかないとありますが、Googleってみると、どちらもかなりかっちりした学校のように見えます。
ENSMIC : The French Milling School (フランス製粉学校)
German Milling School Braunschweig (ドイツ・ブラウンシュヴァイク製粉学校)
フランスは農業大国らしく、製粉教育にもかなり力が入っています。例えば ENSMIC に入学するには、大学卒業が条件で、入学後は 2 年間、みっちり製粉だけでなく、一般科目も勉強することになります。卒業時には国家試験があり、これにパスすればめでたく上級技術者の国家資格が与えられます(すごいっ!)。但し、この国家試験は一回きりしか受験できないとあるので、落ちた人はどうするのか心配になります(それとも、後がないつもりでがんばれということか?)。一方ドイツも同じく 2 年間コースですが、こちらは最先端の製粉技術が無料で受講できるのがウリです。予備知識があれば 1 年でも終了可能で、卒業時には短大の資格が与えられるとあります。
どちらも近代製粉発祥の地、ヨーロッパの大国だけに、製粉にかける意気込みが感じられます、というか永い歴史の中で、既に生活の一部となっています。ただ、残念ながらどちらも自国語だけの授業だけに、日本人にとっては、敷居はかなり高く、日本からとなると、言葉の問題、時間的な制約などの理由で SMS が唯一の選択肢のようです。大企業からは SMS には定期的に派遣されていますが、崖っぷちの中小製粉ではなかなかそこまでの余力はありません。
日本は、元々お米中心の文化なので、欧米のような系統だった製粉教育はありません。特に情報の乏しい中小製粉は、社内で工夫しながら、他社に指導を仰ぎながら、また機械屋さんに相談しながら、自社の工場を熟成させてきました。(・・・・・ ここにはかなり話の筋に飛躍があります。ごめん ・・・・・)。しかし現在、日本の製粉技術は、文句なく世界のトップレベルにあります。主たる理由は2つあります。ひとつは、国際価格よりずっと高い小麦を使用しているので(理由は割愛)、どうしても小麦粉の歩留り向上の努力をせざるをえないこと。もう一つは、日本ではありとあらゆる小麦粉製品が商品化されていること。欧米では小麦粉の用途のほとんどはパン用です。でも、日本では、パン、ケーキ、ラーメン、うどん、そばなどなど多岐にわたります。当然、それぞれ種類の異なる小麦が使用され、それぞれの小麦粉に対する要求も高いので、各製粉会社はがんばるのです。かくして、日本の製粉技術は世界のトップクラスになったのです。