#069 うどんの切り口
うどんの切り口って見たことありますか?うまくイメージできない方は、今度食べるときに、一本箸で持ち上げ、噛んでその断面を見てください。すると、当然ですけど一見長方形に見えます。中には、「おいしいうどんの断面は、鼓型とか星型をしている」という方もいます。それは確かにその通りで、それには理由がありますが、ちょっとややこしいので、また別の機会に考えます。ここではもっと単純に、うどんを切る機械(または道具)の違いによってうどんの断面がどうなるのか見てみます。
うどん屋さんでみかけるうどんは、大抵、角が立っています。これは、延ばした生地を切るときに、包丁を使っているからです。といっても、いまでは包丁で一本、一本切ってるうどん屋さんは、ほとんど見かけません。ほとんどは「麺切り台」もしくは、製麺機械(電動式のカッター)を使っています。いずれにしても、カッターもしくは包丁で、生地を切るので、切り口はシャープで、これはゆでても角が立っています。このような切り口のうどんを「包丁切り」うどんと言います。
一方、乾麺のうどんを食べたことがある方は、その形を思い出してください。断面は長方形には違いありませんが、よく見ると角が少し丸くとれています。乾麺はゆでると、水を吸って太く、そして厚くなりますが、形状はそのまま変わらず、また角は少し丸みを帯びたままです。これは、明らかに「包丁切り」のうどんの断面とは異なります。この理由は、乾麺のうどんは、包丁切りうどんとは、切り方が違うからです。
乾麺の製法を、簡単に説明すると次のようになります。まず小麦粉を塩水と練り合わせ(これを混捏するといいます)、しばらく放置(熟成)させます。次にこの生地を、鉄でできた二つの円柱(ロール)の隙間を通過させることにより、圧延し、薄くします。このとき、いきなり薄くしてしまうと、生地の中の繊維を引きちぎってしまうので、徐々に薄くします。普通は5つのロールを通過させて段々と目標の厚さにまでするので、このロールを使って圧延する機械のことを「五列(ごれつ)」(左写真)といいます。
そして、適度な厚さになった生地は、「切り出しロール」もしくは簡単に「切刃(きりは、下図参照)」と呼ばれる押し切り機で、切られてうどんになります。このようなうどんの製造方法を「ロール製麺」といいます。手延べそうめんを除く、一般の乾麺はすべてこのロール製麺によってつくられています。つまり、そうめん、ひやむぎ、うどんはすべて麺の幅と厚さが違うだけで製造方法は全て同じになります。
この切刃は、二つの凸凹した円柱状のロールでできていて、ここを通過する生地は、「押し切られる」ような感じになるので、「包丁切り」に比べると切り口がシャープではなくなり、角がとれてしまいます。では、この「切刃」と「包丁切り」では、どちらがいいのか?というのが問題になります。「うどんらしさ」という点では、包丁切りです。一方、切刃は処理能力が大きく、つまり一度にたくさんのうどんを切ることができるので、乾麺のような大量生産向きです。食感は多少異なりますが、これを言葉で説明するのは至難です。みなさん各自で試してください。
では、肝心の味はどうか?これは、切り口云々よりも、それまでの段階によって、決まってくると考えます。つまり、次のような条件が影響します:
- 新鮮な小麦粉を使用しているか?
- 十分な加水をしているか?(十分な水は、うどんの旨みを引き出します)。
- 小麦粉と塩水を均一に混ぜ、そして捏ねているか?(これで十分なグルテンを形成します)。
- 十分な熟成時間を確保しているか?(熟成もうどんの旨みを引き出します)。
逆に、このあたりの条件さえ満たしていれば、「包丁切り」でも「切刃」でも、どちらでもおいしいうどんができるんじゃないかと。さぬきでは「包丁切りでなければ、うどんに非ず」みたいな風潮があります。でも、ちゃんと角が立っていても、ただ硬いばっかりでおいしくないうどんもあるし、切刃のうどんでも、そんじょそこらにあるうどん屋さんに負けないくらい、粘りがあって、でんぷん質の旨みを上手に引き出しているうどんもあります。だから、「うどんをどうやって切るか」というのはうどん作りの中では、優先順位はそんなに高くないと思っています。