#073 さぬきうどんセルフ1号店

1月27日に「さぬきうどん研究会」の総会がありました。昨年の様子は新着情報#23をどうぞ(なんか去年は、えらい真面目にレポートしとるな)。会報も第24号と、ますます充実してきました。今回のゲストスピーカーは、久保義明氏で、演題は「讃岐うどんとの出会い」。久保氏は昭和30年11月(1955年)に(有)久保製麺を創業、知る人ぞ知る人気うどん店(・・・だから私は、知らんかった、ごめん)を経営されてきました。実際、周りに聞いたところ、久保製麺のファンはすぐに見つかったのでその看板に偽りはありません。まだ、色々なところで紹介されているので、興味ある方は、ぐぐってみてください。

しかしながら、その行列のできた人気うどん店も、奥様のご病気により、数年前にやむなく閉店となり46年の歴史に幕を下ろしました。「あそこのうどん、旨かったのに、閉めてしまってとっても残念やったわ!」という知人の言葉に代表されるように、惜しまれての閉店であったことは、間違いありません。また久保製麺は、そのうどんもさることながら、現在さぬきうどんの大きな特徴にもなっているセルフ店の第一号としても有名です(これも初耳やった{恥!})。以下の久保氏のお話から、印象深かったことをまとめてみると:

(1)手打ちが機械式より、おいしい理由は過度の力がかからないから。
手で捏ね、足踏みすることによって、適度な圧力が生地に加わり、それが手打ちうどんの軟らかさを生む。同様に人力で延ばすことにより、無理な力がかからず、グルテン繊維が四方八方に形成されるので、ソフトにしかもしっかりとしたうどんに仕上がる。「軟らかい中にもコシがある」、この一見矛盾したような表現こそが、さぬきうどんの特長です。ローラーで延ばすと、生地が硬くなり、その結果うどんもやっぱり硬くなります。硬いうどんは、噛み始めてから最後まで硬いうどんで、これはうどん本来のコシとは根本的に異なります。

(2)塩水の調整には、生卵を使用。
現在はボーメ計や、量りがあるので、塩水の調合は困らないけど、昔は卵を浮かべて、濃度を調整していたこともある。冬場は、卵が水面からちょっと顔をだすくらい。夏場は、一円玉の幅くらい飛び出る程度(だったかな?)。そして、春、秋はその間で調整する(なるほど!)。

(3)塩水は一晩寝かす方がいい。
久保氏曰く「昔はカマス(むしろで作った袋)に『ぼとっ』とした塩が入っとってな、それを水で溶いて、一晩寝かすんや。すぐに使うと、塩が馴染んどらんので、どうも旨いうどんができんかった」。
この塩水の熟成(?)については、これまでも何度か耳にしたことがあります。でも、うどんに使用する程度の塩の量って、混ぜると短時間のうちに、完全に溶けてしまうはずなので、個人的にはなかなか合点がいきません。

セルフ1号店の久保義明氏のお話

セルフ1号店の久保義明氏のお話

で、このあたりのことを塩の専門家に聞いても、「混ぜて数分たったら同じだよ」とか、「確証はないけれど、合わせた直後の塩水は、少しピリピリするような気がするな」など、意見が分かれます。本当は自分でやってみれば、一番いいわけで、またそのうち「うどんテイスティング」してみます。ただ、一般の水道水には塩素が含まれているけど、これを汲み置きして一晩放置すると、塩素が抜けてしまいます。だから、その点では確かに、一晩置いた水の方が、いいという話は理解できるな。

(4)セルフサービス第1号店
店を始めて程なく、「ここでうどん、食べさせてくれんな!」という人がぽつぽつでてきたので、店頭サービスを始めた。これが昭和32年のことでした。うどんの上にかつお節をのせ、生醤油で食べる、単純なうどん(今の生醤油うどん)でしたけど、打ち立て、揚げたてなので、良く売れた(というか、やっぱりうどんが旨かったんやろな)。しかし、うどん玉の代金しか払ってくれず、「売れれば売れるほど、赤字になった」そうで、「これでは、いかん」と思い、出し汁を作り別途料金にした。

すると今度は保健所から「食中毒がでたら困るがな!」とクレームがきた。当時はうどんの玉卸しの許可しかなく、店頭でうどんを食べさせるには、別に飲食の許可が必要だったので、当然といえば当然。でも、飲食する場所もないし、「どやんしょうか?」と思案したあげく、「製麺と飲食をする場所の間に仕切りを作って申請したら、三ヵ月後に飲食の許可が下りた」。で、「晴れて、お店でうどんを食べさせることができるようになりました」。よって、「製麺」と「飲食」の許可を両方とったのは、久保製麺が多分最初で、かくして「さぬきうどんセルフ第1号店」が誕生したのであります。