#075 玄米のススメ ・・・ その2
(4)なぜ玄米は利用されないのか?
このインスリンの抑制効果に限らず、「玄米の効用」については、これまで耳にたこができる程、聞いてきました。でも玄米は、それ程メジャーにはなっていませんね。これには、いくつか理由があります。一つには、玄米食が必要となる中高年になるほど、また特に男性高齢者ほど、玄米が好きでなくなるといった傾向があること。また、歯が衰えて玄米が噛みにくいとか、消化しづらいといったこともあります。しかし、普及を妨げているのは、それ以上に経済上の理由であると、S先生は言います。これは、「玄米が高くて買えない」ではなくて、「玄米では商売にならない」のです。
例えば、どんなご馳走を食べても血糖値を上昇させない、しかも副作用が全くない夢の物質があるとします。すると製薬会社は、これを製品化するための研究に、努力を惜しみません。だって、どんなご馳走を食べても、錠剤一粒飲んだだけで、何もせずに、血糖値が正常に戻るんだからね。もし、こういう薬が製品化されれば、いくらでも売れて、ばかばか儲かることは明らかです。だから、お金に糸目をつけず、いくらでも研究費をつぎ込めるのです。
でも、玄米はいくら力を入れて売ってみたところで、そんなに儲かる食材ではありません。最近はギャバが入っているとかいって、玄米をベースに、色々付加価値をつけて販売してはいますが、薬品のような高収益商品にはなりえません。だからあんまし、力が入らないと・・・。
これは、S先生のようなお医者さんについても同じです。先生が、ただひたすら患者さんのためを思い、口を酸っぱくして、1時間も2時間もかけて玄米食生活の効用を説きます。これによって、患者さんが玄米食生活を実践して、いきいき健康ライフをおくれるようになったら、みんなハッピーです。が、病院経営にとってはプラスになりません、というか費やした時間だけ、足を引っぱることになります。これは歯医者さんが、患者さんに治療をせずに、虫歯予防を丁寧に説明しているようなものです。普通は、こんなこと誰もしません、だからS先生はかなり変わっていることになります。
それよりも、普通はそういう患者さんがいたら、「血糖値を抑えるには、このお薬がよく効くので、だしときますね。食事には気をつけてくださいね。お大事に!」でおしまいです。手間が省けて、薬が売れるので、これが健全な(?)病院経営の姿勢です。実際、同僚のお医者さんたちは、S先生の不可解な行動に対して「ご苦労様」というねぎらいの言葉をかけても、「自分でそこまでやろうという人はおらんなあ」と、S先生も言っとりました。
(5)個人の独断
S先生が「玄米、いいぞ」っていう玄米の効用は、主として「インスリンの抑制効果」とか「切れやすい子供たちを鎮める効果」でした。で、ここで個人的にそれ以外の玄米のメリットをまとめてみました。ただし独断ですので、そのあたり重々お気をつけください。
(a)玄米は、極めて信頼できる食品である。
お米は、私たちがこれまで何千年という期間にわたり、またみんなが食べてきた穀物だ。だからその安全性と機能性は、全人類的に保証されていて、これに匹敵するのは多分小麦ぐらいだろう(だから小麦粉ももっと食べよう、できればうどんも・・・)。
(b)玄米は、サプリメントではない。
時に、玄米とサプリメントどちらも、「健康食品」でひとくくりにされることがあるけど、両者はまるっきり正反対のものだ。そもそも、私たちが考えているサプリメントというのは、お肌のためにはビタミンC、目をよくするためにはブルーベリー、また最近よく耳にするのは、コラーゲンとかヒアルロン酸など、特定の栄養素というか成分だけを抽出したものだ。よく一粒で「○○○100個分のビタミンC」なんて宣伝しているが、通常の食事でそんなに摂取するのは不可能だ。
だからこのあたりに、個人的にはサプリメントに対する抵抗があります。だって、そんなに臨床試験してその効果が実証されたわけでもないし、またもし効果があったとしても、副作用があるかもしれないし、こういった検証というのは、何十年と追跡調査しないと、なかなかわからんと思うからです。
またそれ以上に両者が異なるのは、その栄養成分です。サプリメントは、特定の栄養素だけを抽出したものであるのに対し、玄米、白米を加工する前の段階の食材で、色々な栄養素が平均的につまっています。このような食品を「一物全体食(いちぶつせんたいしょく)」とよんでいます。私たちが普段食べている食品の中では、納豆、大豆などの豆類が典型的な一物全体食です。つまり、玄米は何も加工していない素材そのものであるのに対し、サプリメントは単一栄養素なので、両極端に位置するものです。だから、玄米のような食材の方が、個人的には自然で安心だ。
これは加工食品についても同じことがいえます。玄米から、米糠層を削りとって(精米する)、白米ができる。大豆からおからをとって、豆腐ができる。小麦から胚乳部分だけをとって(製粉する)、小麦粉ができる。などなど、食品というのは、加工度を上げるほど、おいしく(感じる?)、口当たりが良くなり、ついつい食べ過ぎて、そして栄養が偏る傾向にあります。
(6)結論
「じゃあ、それほど健康にいいなら、毎日玄米食べてるのか?」と聞かれると、「そうではない」と答えなければならないところに、「玄米食」の限界があるのかもしれない(でも、玄米全粒粉は毎日食べています、粉屋だからね)。
結局のところ、現在では悲しいかな「私たちが食べておいしいもの」は、「健康によくない」ものが多く、「健康にいいもの」は「食べてあまりおいしく感じない」ところに問題があります。でも「あれはダメ、これもダメ」なんて言い出すと、それこそ「生きるために食べる」みたいになって、辛くなります。
だからこれからも、一応血糖値や血圧にびくびくしながら、美味しいものを食べて、身体を動かし、玄米もたべよう、と考えています。こういう玉虫色の結論しかできないことに対し、忸怩たるものがありますがどうかご容赦ください(なんか政治家の答弁みたいになってきた)。