#089 小麦粉の吸水率と加水率
小麦粉に水を加えて捏ねていくと、だんだんと固まって生地ができてきます。このとき加える水の量が少ないと、生地は硬くなり、また水を増やすほど、軟らかくなります。いま、生地を「一定の硬さ」にするために必要な水の量を、その小麦粉の「吸水率」といいます。「一定の硬さ」という表現は曖昧なので、しっくりこなければ、「手打ちうどんに適した生地の硬さ」と考えてもらっても構いません。同じ量の水を加えても、吸水率の違いにより、軟らかいものもあれば硬いものもあります。そこで、生地を一定の硬さにするためには、どれだけの水を加えればいいのかを考えるとき、この吸水率という言葉が便利で役に立ちます。これが吸水率という言葉を使用する理由です。
吸水率は小麦粉の種類ではもちろん、たとえ同じ種類の小麦であっても製粉方法の違いでも異なります。また、同じ水の量でも、寒いよりも暖かい方が軟らかくなるし、乾燥しているよりも、湿度が高い方が小麦粉が吸湿して、軟らかくなります。だから吸水率は、小麦粉だけでなく、小麦粉を捏ねる環境にも影響されます。で、「一定の硬さ」にするために加える水の量が多いとき、その小麦粉は吸水率が大きいといい、逆に少ない水ですむときには、吸水率が小さいといいます。一見、吸水率の大きい小麦粉の方が、「うどんがたくさんとれていいじゃないか」という気がしないでもありませんが、ゆであがったうどんの水分はどれもよく似ているので、そんなに良いわけでもないと思います。
吸水率に関連して、「加水率(新着情報#64)」という言葉がありますが、これはうどんの生地をつくるときに加える塩水の割合です。具体的には:
加水率=(うどん生地を練るときに使用する塩水の重さ)÷(小麦粉の重さ)×100%
yと決めています。例えば、小麦粉1kgに塩水500gを使用するときの加水率は50%になります。同じ加水率に設定していても、吸水率が小さいと、生地が軟らかくなりすぎるので、加水率を減らします。逆に吸水率が大きいときは、加水率をあげないと、同じ硬さになりません。このように吸水率の違いで、生地が硬くなったり、軟らかくなったりするので、うどん屋さんにとっては、この吸水率、結構関心が高いというか、頭を悩ますところでもあります。
昔の小麦粉は、内麦(国産小麦)が主体であったせいもあって、品質にぶれがありました。そのあたりの事情は、うどん屋さんも経験則として知っていたので、生地を練るときには、微妙な水加減に気を使っていました。だから練っていて、「ちょっと硬いかな」と感じたら加水を増やし、だれ気味のときには少なくするなどして、臨機応変に対応していたようです。日によって加水率が多少変わっても、別に何とも思わなかった、というか、それが普通と思っていたようです。以前、あるうどん講習会のQ&Aで、「加水は勘でやっとる!」というおじさんがいて、唖然としたことがありますが、以前はこれが普通だったのかもしれません。
一方、現在のうどんづくりは、どうなったかというと、まず熟練の職人さんが減り、比較的経験の浅い人が担当することが多くなりました。それに伴い、作業工程がマニュアル化され、また製麺機が普及した結果、「手順に従えば誰にでも、そこそこのものができる」ことが期待されるようになりました。つまり製麺機と相性のよい、許容範囲の広い小麦粉が求められ、その一つの条件が「吸水率が変わらない」ということになります。だって、マニュアルに加水率45%と書いてあれば、硬くなろうが軟らかくなろうが、何が何でも加水は45%なのです。いちいち加水率を変えるのは面倒だし、未経験者ではなかなか対応できません。
現在、うどん用小麦としては、ASWが業界標準のようになっていますが、その理由の一つには「使い勝手」がいいからです。でもね、いくらASWといえども農産物であるので、工業製品のようにいつも同じものができるとは限りません。そして小麦粉はその小麦を製粉してできます。いくら工場が機械化されても、元の小麦の品質を変えることまではできません。どういうことかと言えば、「吸水率」ひとつをとっても、もとの小麦の性質に依存せざるを得ないところがあるのです。以上、製粉会社の勝手ないいわけでした。