#090 小麦粉の吸水率とたんぱく質との関係
小麦粉には80種類以上のたんぱく質が含まれていますが、その中でとくに重要なのがグルテニンとグリアジンです。その理由は、「ねばねば」したグルテニンと「べとべと」したグリアジンが水と一緒になって、グルテンというチューインガムのような粘弾性のある、小麦粉特有のたんぱく質をつくるからです。このグルテンのお陰で、私たちは、小麦粉を水で練った生地を、自由に成形することができます。つまり、生地が切れずに、自由に伸びたり縮んだりできるのは、このグルテンによるものです。
ところでこのグルテンというタンパク質をもっている穀物は、小麦だけで、他の穀物にはありません。現在、世界で一番多く栽培されている穀物は、とうもろこしですが、食用となるとダントツで小麦です。小麦が穀物の王様になったのは、このグルテンによる加工適性のよさ、そして食材としての味の良さ、この2つが大きな理由だと考えます。
さて、ここで小麦粉の吸水率(新着情報#87)について少し考えてみます。小麦粉には、大まかにいって、70%程度のでんぷん質、8~12%のたんぱく質、そして14%程度の水分が含まれます。このうち、でんぷん質とたんぱく質、どちらも吸水しますが、その吸水力はたんぱく質の方が、でんぷんよりもずっと大きく、たんぱく質の多少が、小麦粉全体の吸水力に大きく影響します。
でんぷんは量的には多くても、吸水力が小さいので、小麦粉同士ではそんなに違いはでません。ただ例外として「損傷でんぷん」と言われるものがあります。これは、小麦粉をあまり小さく粉砕しすぎるとできる、傷ついたでんぷん粒のことで、吸水力は健全でんぷんの数倍と言われています。損傷でんぷんは、αアミラーゼという酵素を活性化させるので、製パン時には、ある程度は必要(らしい)ですが、これだけはしょると、何を言ってるのかさっぱりわかりません。このあたりは、我々の関心外なので、興味ある方は、また製パンの本などをご覧ください。
しかし、うどんについては、損傷でんぷんが多いと、麺がべとついたり、また味にも影響したりすると言われているので、ない方がいいと思います。同じ原料小麦を使用していても、メーカー間で吸水率に差があるのは、このあたりが関係しているのかもしれませんが、今回のテーマではありませんので、飛ばします。で、以上のように考えるとやや強引ですが、小麦粉の吸水力に一番影響するのは、やっぱりたんぱく質の量ということになります。ではここで改めて、小麦のたんぱく質がどれ位の水分を保持できるか確認してみます。
最初に言ったように、小麦の中のグルテニンとグリアジンが水を吸収してグルテンになります。そしてこのグルテンは、へらとボウルで簡単にとることができます。採取する過程で、でんぷん質はぬるま湯の中に溶けて流れ出てしまい、残ったのがグルテン(wet gluten)で、これを日本語では湿麩(しっぷ)といいます。湿麩の約2/3は水で、残りつまり1/3がグルテンそのものになります。この事実から考えて、小麦粉のたんぱく質は、ざっと自分の2倍の水を保持できることがわかります。
一方、たんぱく質もひっくるめた、小麦粉全体の保水力は精々100%、つまり1kgの小麦粉は1kgの水しか保持できないと言われています。このことは、小麦粉と水を、同量練り合わせてみると、「どろどろ」になってしまうことからも確認できます。ところが、もし小麦粉がすべてたんぱく質でできているとしたら、1kgの小麦粉は2kgの水とくっついて3kgの湿麩ができます。1kgの小麦粉が3kgのぶよぶよしたチューインガムみたいになるのは、なかなか想像できませんね。このように考えると、グルテンの保水力が、いかに大きいものかよくわかります。
現在、うどん用小麦粉に含まれる、平均的なたんぱく質の量は9%前後です。いま小麦粉に含まれるたんぱく質が1%増えたとすると(その分、でんぷんが減りますが、ここでは無視します)、小麦粉1kgでは10gのたんぱく質が増えたことになるので、これは先ほどの湿麩の例で考えると、約20g余計に水を保持できることがわかります。
春秋用の一般的な手打ちうどんの加水率は50%、塩水濃度は12%ですが、これは小麦粉1kgに対し、水440g、塩60gになります。たんぱく質が1%増えただけで、20gの水を余分に抱え込むことができるということは、このままでは生地が、かなり硬くなってしまうだろうと想像できます。単純に保水力と加水率とを比較することはできませんが、水440gに対する20gというのは4.5%にもなるので、かなり影響はあるはずです。そういうことで、結論としては:
小麦粉に含まれるたんぱく質の量が、加水率に大きく影響する。たんぱく質が増えると、それに応じて加水も増やす必要がある。