#091 最近のうどん用小麦(ASWと「さぬきの夢2000」)の特徴
現在、さぬきでうどん用小麦といえば、まずASW、そしてそれに続いて「さぬきの夢2000」があります。どちらもうどん用として素晴らしい小麦ですが、その性質は両極端です。ここでは、たんぱく質に着目して、2つの小麦の特徴を簡単に紹介します。
(1)2007年のASW
ご存じのように2006年のオーストラリアは100年に一度といわれる干ばつに見舞われ、小麦の収穫は例年の半分以下に落ち込みました。幸い、日本向けASWは十分に確保されているので、うどん用小麦がなくなる心配はありません。ただAWB(オーストラリア小麦局)より、2006年度産ASWについて、次のような説明がありました。
- 例年に比べ若干小振りである。
- 例年に比べたんぱくが少し高めである。
2006年度産のASWは今年の2月くらいから順次輸入され、現在では、ほとんど2006年度産に切り替わりました。実際、AWBの発表の通り、通常は小麦粉ベースで9%程度のたんぱく質は、春頃に比べると少し高めです。みなさんも、従来通りの加水率で練っていて「ちょっと生地が硬いかな」と感じたら、気持ち加水を増やしてみてください。
ただ、こう言いながら、矛盾した言い方で心苦しいですけど、たんぱく質の量だけで片付けられないこともあります。実は以前、「いつもより、生地がちょっと軟らかいけど、どうなっとんかいの?」と聞かれたことがありました。このときは、グルテン(たんぱく)の量は、いつもと大差ないのでおかしいなと思いながら、実際にうどん生地を練ってみると、確かに普段より軟らかい。で、これはどういうことかと考えるに、「グルテンの性質が違うんだろう」という結論になりました。つまり一口にグルテンといっても、「軟らかいグルテン」とか「硬いグルテン」とかあるので、たとえ同じ量でも、グルテンそのものが軟らかいと、当然うどん生地もそうなってしまうのです。
こういう事例をあげると、「ASWという小麦は、品質が安定してないのかな?」と思うかもしれませんが、実際は逆で、内麦に比べると格段に安定しています。その理由の一つは、その生産量にあります。オーストラリアでは、毎年2000万t以上の小麦がとれるのに対し、日本では北海道から九州まで、幅広く耕作されてはいますが、生産量は80万t程度にしか過ぎません。普通、同じものを生産しても、少しよりもたくさん作る方が、平均的な品質は安定します。しかも日本は、南北に長いので気候変化による影響も受けやすくなります。
でもね、その安定しているASWでも、品質において多少の「不同」、つまりぶれがおきる理由は、やはり小麦は工業製品ではなく、農作物だからということになります。ASWはオーストラリアから数万トンの大きな船に乗ってやってきます。普通、同じ船の中では、品質における不同はありません。しかし、船が変われば、微妙にずれることがあります。理由は、船が違うということは、それは異なるロット、つまり違う地域で獲れた小麦が積み込まれているからです。
(2)さぬきの夢2000
「さぬきの夢2000」はたんぱくが8%程度とASWに比べてかなり少なくなっています。「さぬきの夢2000」に限らず、よく「内麦は打ち手を選ぶ」と言われますが、これはすべてたんぱく質が十分でないことに起因しています。このあたりのことを少し詳しく説明すると次のようになります。
いまたんぱく質が8%小麦粉Aと10%の小麦粉Bの2種類がそれぞれ1kgずつあるとします。で、たんぱく質の水の保持力は、単純に2倍だとすると、Aが160g、Bが200gとなります(このあたりは前回のグルテンの話をご参照ください)。すると、同じ10gの水でも、Aは10÷160=6.25%、Bは10÷200=5%となり、BよりもAに対する影響の方が大きくなります。
簡単に言うと、同じ量の水でも、たんぱくの少ない小麦粉に対する影響の方が大きくなります。ということは、たんぱく量が少ないほど、加水の調整が難しく、加水量に対する許容範囲が狭くなります。小麦粉は水が足りないと、当然生地はまとまりませんが、たんぱくの低い内麦粉は、ちょっと多すぎると、すぐにだれてしまい、その調整が面倒です。ところがたんぱくが十分にあるASWだと、「少々、水が多めかな」と思っても、軟らかいなりにも、なんとかうどんができてしまいます。
この加水の許容範囲の狭さを痛感するのは、多分気温の低い冬季でしょう。なかなか生地がまとまらないからといって、適当に加水を増やし、うまく団子ができたと思ったら、後でだれてしまうことがあります。こういうときは、水回しが終わったあとで、乾燥しないようにして15~30分間放置してやります(これをそぼろ熟成、または予備熟成といいます)。こうすると、水分が粉の隅々まで行き渡って、生地がまとまりやすくなります。
以上の事例をみると、加水量というのは、小麦の種類によって当然変わるし、たとえ同じ種類の小麦であっても、微妙なところではいつも変わる可能性がある、ということがわかります。大まかな加水量は、たんぱく量で目安をつけておくけれども、最終的には自分で捏ねてみて決めるのが、ベストのような気がします。最近は分析機器も充実してきたので、小麦粉の吸水率を測る測定機器もあります。でも、いくら測定しても、最終的に判断するのは、うどんを打つ人です。自分で捏ねるときの感覚に勝る機械はありません。ということで、たんぱく量はひとつの目安と考え、最終的にはご自身で判断なさってください。