#118 (Q) 小麦粉の保存は、紙袋とポリ袋、どちらがいいんですか?

「小麦粉の保存は、紙袋とポリ袋ではどちらがいいんですか?」と聞かれることがあります。スーパーの棚には、紙袋とポリ袋の2種類が家庭用小麦粉として並んでいますが、紙袋の方も内側はポリ袋を貼り合わせてあるので、実際はほとんどが、ポリ袋となっています。一方、うどん専門店で使用される業務用(25kg入)では、紙袋(クラフト紙)が使用されています。で、どちらの材質が適しているのか直感ではなかなか判断しかねます。

というのは、小麦粉も農作物や生鮮食料品と同じ範疇としてとらえれば、通気性に優れている方がなんとなく良いように思えるので、よって紙袋がいいんじゃないかと。実際、聞いてみると大抵のが方が、理由もなく「紙袋の方がなんとなくいいんじゃないの」と答えます。

でも通気性がいいということは、空気に触れることだから酸化が進み、グルテンが劣化するのも事実です。だから酸化を防ぐには、密閉性の高いポリ袋の方が優れていることになりますそれに、小麦粉は臭いを吸着しやすいことを考えると、クラフト紙よりもポリの方が有利です。ということで、ここでは、紙袋とポリ袋では、どちらが優れているのか、食味試験により検証してみます。

 

食味試験日:2007年12月22日

左:ポリ袋、右:紙袋(クラフト紙)に入れて、苦節10ヶ月

左:ポリ袋、右:紙袋(クラフト紙)に入れて、苦節10ヶ月

使用小麦粉:2007年2月15日に製粉した小麦粉を、それぞれ紙袋とポリ袋に入れ、高温多湿の梅雨、夏季を挟んで10ヶ月保存。通常は、1~2ヶ月程度で使い切ることを考えれば、かなり厳しい条件ですが、違いを明確にするために敢えて、このような長期間を設定。保存場所は一般的な空調設備の整った事務所。またコントロール(対照品、つまり基準となる小麦粉)としては、2007年12月12日製粉の小麦粉、つまり製粉後10日経過した鮮度の高い小麦粉を使用した。よって使用小麦粉は次の3点。

①標準品(製粉後10日経過した小麦粉)
②ポリ袋に保存したもの(製粉後10ヶ月経過)
③紙袋に保存したもの(製粉後10ヶ月経過)

①-②-①-②-①の順、実際は①が黄色が強かったが画像では厳しいね。

①-②-①-②-①の順、実際は①が黄色が強かったが画像では厳しいね。

 

③-②-③-②-③の順、③の方がかなり自然漂白されているのがわかる。

③-②-③-②-③の順、③の方がかなり自然漂白されているのがわかる。

作業条件:加水率50%、塩度11%(この時期としては標準的なもの)。以下、それぞれの作業段階で比較しながらみていきます。

水回し
最初の重要なステップである水回し終了時点では、①標準品は少し塊ができたのに対し、②ポリ袋と③紙袋はきれいなそぼろになった。これは、それぞれの小麦粉に含まれる水分が、①標準品14.20%、②ポリ袋13.53%、③紙袋12.48%と違いがあるので、同じ加水量でも水分の多い小麦粉は塊ができやすいということです。冬季に製粉した小麦粉の水分は14%程度なので10ヶ月の間に、通気性のよい紙袋では、1.5%以上の水分が蒸発し、ほぼ平衡水分に達していることがわかります。また、ポリ袋は紙袋と比較して密閉性は高いけれど、それでも0.5%程度は蒸発しています。また酸化が進み自然漂白された③紙袋の方は、明らかに他の二つに比べその白さが際だっている。

そぼろ熟成中。左から②、③、①の順番。③は明からに白い。

そぼろ熟成中。左から②、③、①の順番。③は明からに白い。

 

熟成&延ばし
水回し後は、そぼろ熟成を2時間、その後足踏みをおこない、更に熟成を数時間おこなう。①標準品が一番延ばしやすく、③紙袋はなかなか延びない。これは単に小麦粉の水分の違いによる生地の硬さの違いが原因でしょう。ゆで時間はどれも15分としました。

食味評価:
総合評価は、「①標準品 > ②ポリ袋 >> ③紙袋」の順番でした。①と②は一見よく似ているけど、麺の艶、張り、風味においては、当然①標準品が優れています。また②ポリ袋の方は、ちょっと羊羹をたべてるような食感かな。つまり、「タンパク質が劣化する→グルテンの粘弾性が弱くなる→噛んだときのはね返りがなくなる」ので力を入れるとそのまま噛み切れてしまう感じ③紙袋の方は、その傾向が更に強く、挽きたて特有の淡黄色は完全に消失し、ただ白いだけの麺になっていて違いは歴然としている。更には、食味においても劣り、「クラフト紙のような臭いがする」との感想もありました。つまり長期間経過すると小麦粉もクラフト紙の臭いを吸着するようです。

結論
一言でいうと、「①標準品がベスト、②ポリ袋はまずまず、そして③紙袋は劣る」でした。よって小麦粉の保存はクラフト紙よりもポリ袋の方が適しているようです。ただ、繰り返しますが、この比較はかなり厳しい条件でおこなっているので、通常ではクラフト紙で問題ありません。蛇足ですが、ポリ袋は「つるつる」すべるのでそれが業務用として採用されてないひとつの理由です。いずれにしても、小麦粉は鮮度が命です。できるだけ早いうちに使い切りましょう。