#125 製粉後の小麦粉の変化④・・・保存方法による違い

前回(#124)の小麦粉の保存方法についての報告をみてると、改めて先人達の努力の跡がうかがえます。特に、グリアーさんのように、「27年経過しても、充分にパンが膨れた」というのはびっくりしたし、「そもそもそれだけの期間、小麦粉を保存していたことを忘れなかった」こともすごいことです。

別件ですが、中学のときみんなで、20年後の再会を誓って、校庭にタイムカプセルを埋蔵しました。しかし数年後、駐輪場の工事のために無惨にも掘りかえされたと聞きました。その埋蔵物は結局返却されることはなく、きっとそのまま土砂と一緒に捨てられてしまったであろうと推察しましたが、いずれにしても残念なことでした。

で、話は戻り、改めて結果をみると、各人各様の方法で保存しているので、結果が重複しているもの、また同じ方法であるのに結果が異なるものなど色々あります。しかし全体的な傾向は、読み取れるので簡単にまとめてみました。最初の2つは小麦粉を保存する条件、残りの3つは小麦粉自体の特徴です。

小麦粉が劣化しにくい条件:
①気密性の高い容器を使用する
②低温で湿度の低いところで保存する
③水分の低い小麦粉
④上級粉、つまり灰分の少ない小麦粉
⑤粒度の大きな小麦粉

①は新着情報#118#120で確認したことと一致します。また②についても極めて常識的な見解です。実際、小麦の保管方法については、どこをみても「高温多湿を避ける」との注意書きがあります。うどん屋さんの厨房というのは高温多湿になりやすので、気をつけてください。特に小麦粉の入った袋を地べたに直接置くのは良い方法ではありません。必ず、スノコを敷いて風通しをよくしましょう。

③の小麦粉の水分については、季節による差異は若干ありますが、製粉の工程上、操作できる余地はあまりありません。④の小麦粉のグレードについては、これまで何度も説明したので割愛します。詳細は例えば「新着情報#86灰分の色々な量り方」をご覧ください。ただ、(といいつつまた同じことを繰り返しますが)同じ小麦であっても、胚乳の中心部分からとれた小麦粉は、冴えたきれいな色をしているのに対し、外側に近づくほどだんだんとくすんできます。これはリン、カリウム、マグネシウム、鉄などのミネラルが多く含まれているせいですが、それと同時に脂質も多く含み、そのため酵素活性が活発になるので、それだけ劣化が早くなります(と書いてありました)。

あと興味深いのは⑤粒の大きな小麦粉は、劣化のスピードが遅いという報告ですが、これについて少し補足しておきます。一般に小麦粉の粒の大きさは、150μ(ミクロン)以下ということになっていて(「新着情報#53」参照)、これより大きな胚乳の粒は、粗粒もしくはセモリナといって区別されます。

ところで「セモリナといえばパスタの原料」を思い浮かべる人もいると思います。パスタは、小麦とは少し種類の異なる「デュラム小麦」から作られています。そしてこのデュラム小麦はかなり硬く、粗粒(セモリナ)の状態で使用されるので、「パスタはセモリナからできている」という表現が定着したと考えます。いずれにしても、一般には150μよりも大きな胚乳の粒のことをセモリナといいます

セモリナと小麦粉を同じ状態で保存したときは、粒の大きなセモリナの方が、明らかに劣化が遅かったとラーマーさんは報告しています。この理由付けとしては、真偽の程はともかく、次のように考えると筋が通ります。今、1個のセモリナがあるとします。これを適当に割って小麦粉にしたら、当然表面積が大きくなり、するとそれだけ空気に触れやすく、結果として酸化されやすくなるんじゃないかと。

蛇足ながら小麦粉の粒度の大小は、慣れてくるとだんだんと手触りでわかるようになります。粗い小麦粉は、「サラサラ」していて、細かい小麦粉は「ぼとぼと」して指にまとわりつくような感触です。一般に硬質小麦からできる強力粉は、粒が大きく、反対に軟質小麦からできる薄力粉は、細かくなる傾向にあります。だからうどんも劣化の遅い粒度の大きな小麦粉の方が適しているような気がします。