#161 今時の小麦製粉④・・・小麦の挽砕(ばんさい)その1
一晩寝かされ、丸々膨れた小麦は、いよいよメインイベントである挽砕工程に入ります。昔は石臼で挽いていましたが、現在は製粉史上最大の発明といわれるロール製粉機(以下ロール機)が主役です。話が細かくなりますが、この挽砕工程では小麦を大きく割るだけの作業を「破砕(はさい)」、また粉にまで細かくしてしまうことを「粉砕(ふんさい)」といって区別し、両方併せて挽砕といいます。そして小麦が最終的に小麦粉になるまでの、途中の段階の状態を「半製品」または「ストック」とよびます。
小麦粉の一歩手前の状態である胚乳の塊はセモリナといいます。セモリナといえば、パスタ原料であるデュラム小麦の小麦粉を思い浮かべる方もいますが、一般の小麦製粉では胚乳の塊のことをセモリナといいます。簡単にいうと小麦粉より大きいのがセモリナです。セモリナは粒が大きいので、手にとってみると砂のようにざらざらしています。そして最終的に小麦粉になったものは「上がり粉」とよんでいます。現代の小麦製粉は、一言でいうといかに多くの上質の上がり粉がとれるか、つまりそのためにはいかに多くのセモリナを採れるかが、ポイントとなります。
ロール機は図のように、鉄でできた一対の円柱状のロールのかみ合い部分に、小麦またはストックを通過させることにより、挽砕する機械のことです。普通は、前後に独立した2組が対称に並び、一度に2種類のストックを別々に処理できるような構造になっています。小麦は最初1Bロール機で大きく割られます。割るとはBreak(ブレーク)、つまり最初に割るので1Bロールとよばれています。1Bロール機を通過した小麦は、5つのストックに篩分けられ、これを大きい順に並べたのが、次の図です(新着情報#051もよければどうぞ)。
一番粗いストックは、一見皮だけのように見えますが、胚乳がまだたくさんくっついているので、2Bロール機に運ばれ、もう一段階小さく割られ、更に篩分けられます。2、3、4番目のストックも別の工程で更に処理されます。一番右端のストックは充分に小さく、これは「上がり粉」つまりこの時点で既に小麦粉になっています。ただし1Bでとれる上がり粉は、品質的には最高のものではありません。理由は、小麦の粒溝(溝の部分)についているほこりや表皮の破片が混入しやすいからです。1Bの目的はあくまで、小麦を大きく割り、その後の工程でできるだけ多くのセモリナを採れるようにすることです。
この後の工程を全て説明しても、あまり意味がありませんので省略しますが、注目してほしいのは、「一粒の小麦は最終的に40~50種類の上がり粉に採り分けられる」という事実です。現在の製粉工場はどこも、「ストックを一段階小さくする → 篩分け」といった手順を繰り返し、最終的にできる限り多くのそして良質の小麦粉を採り分けます。このような面倒な方法をとる理由はただ一つ、表皮の混入を避けるためです。
人の好みはそれぞれですが、一般には、うどんはつるつるのど越しの良い、淡黄色で食欲をそそるもの、またパンは白くてふわふわしているものが、万人向けするようです。そしてそのためには、できるだけ表皮の混入を避けるのが最善の方法です。このような面倒くさい製粉方法は「段階式製粉方法」とよばれ、実用化には時間がかかりましたが、そのアイデアは少なくとも16世紀のフランスで既に始まっていたと言われています。