#178 小麦のおいしい部位
小麦粉は、放置しておくと虫がつきます。開封して空気が触れるようになるとその発生率は高くなり、梅雨から秋口にかけての高温多湿の季節は虫にとっては絶好の生息条件になります。小麦粉に発生する害虫は、一般には無害ですが実際に見るとあまり良いものではありません。「虫がついたり、カビが生えたりするのは、防虫処理や防かび処理をしてない証です」という屁理屈というか一般論は、現在ではなかなか支持されません。現在の食品は、安全・安心で、尚かつ虫はつかない、カビは生えないという、一見矛盾とも思えるような厳しい条件を満たしている必要があります。
製粉前の小麦は表皮という殻に被われているので、小麦粉に比べると害虫が発生する頻度は、低くなりますが、それでも条件が揃えば発生します。玄米も同様に、白米に比べると米糠で被われていますが、放っておくと同じように食べられてしまいます。そのため小麦の状態で長期に亘り保管するときは、燻蒸作業が必要になります。燻蒸という言葉を聞いただけでアレルギーを起こす方もいますが、現在のように大量の小麦を処理する場合は、国産小麦、外国産小麦を問わず、そのような作業が必要になってきます。
では燻蒸作業をしないとどうなるかといえば、コクヌストモドキに代表されるような穀物害虫がやってきて、小麦を食べてしまいます。実際には画像のような無惨な状態になってしまいます。これを見ると、虫は皮よりも中の胚乳の方が好きだということがわかります。だって外側の殻だけ残って、中はきれいに空洞になっているからです。虫は正直なのでおいしいところしか食べません。だから中心部分の方が美味しいのに違いありません。
虫がそうなら人間も同じです。うどんについて言うと、極端に中心部分だけ取り分けることについては若干異論があるものの、一般的傾向としてはグレードの高い小麦粉の方が、うどんの評価は高くなります。表皮部分が少し混じった2等粉で作ると色がくすんで、喉ごしもざらざら、ちょっとべとついて、コシもキレも良くありません。その点1等粉で打つと、つるつる、しこしこ、コシはあって、喉ごし良好、また見た目も淡黄色で見るからに食欲をそそります。1等粉と2等粉で同じようにつくったうどんを、そのまま黙って試食してもらうと、100人が100人とも1等粉で作ったうどんを選びます。
この傾向はうどんに限りません。巷には加工食品が溢れていて、私たちはどうしても口当たりのいいもの、柔らかいもの、味のいいものばかりを選んで食べる傾向にあります。運動もせずに、旨いもんばかり食べていると栄養摂取過多になり、それを続ければどうしても太ります。現在、予備軍まで含めて2000万人とも言われている糖尿病患者は、現代食生活の結果です。だから現代人は放っておくと、食べやすいものばかり食べるので、食物繊維が不足がちになります。
「これではいかん」ということで、最近は小麦粉にも全粒粉(ぜんりゅうふん)というのが登場しました。これは小麦を丸ごと粉砕したもので、その中には胚乳も表皮もすべて入っています。普通の小麦粉よりもミネラルや食物繊維をふんだんに含んでいるので、現代人の食生活にとっては良いことには間違いありません。ただ全粒粉といえば、耳には心地よく響くのですが、うどんにするとそれほど旨いものではありません。はっきり言って普通の小麦粉で作った方がずっと美味しいと思います。
で、結局のところ現代人にとって美味しいと感じるものと、現代人にとって必要な栄養素とが一致せずに、ずれているところに現代の食生活の問題点があるのです。だから私たちはあまり口当たりの良いものばかり食べずに、意識的に色々なものを食べ、そして適度に運動をしないといけないのです。
最後に素朴な疑問がひとつ。コクヌストモドキは小麦、特にその中でも胚乳部分が好きなのはわかりますが、中に入るためにはとりあえず自分が入ることのできる大きさの殻を取り除く必要があります。そのときとった殻の部分は食べるのか、それとも棄てるのか。普通に考えると、殻の向こうには、食べきれない程おいしいものがあるので、きっと食べてないだろうと個人的には思いますけど。