#193 「つなぎ力」に着目したでんぷんの性質
小麦粉の栄養成分は、多い順に並べると「炭水化物>水分>たんぱく質>脂質>灰分」となります。で、中力粉、つまりうどん用小麦粉の代表銘柄ASWの最近のデータを円グラフにすると次のようになります。栄養成分は小麦の種類によって多少のバラツキはありますが、強力粉であれば、たんぱく質が12%程度、薄力粉なら8%程度になるくらいで、小麦粉ならこんな感じになると考えて問題ありません。では我々に馴染みの深いでんぷんは、どこにあるかといえば、それは炭水化物の部分で全体の3/4を占める小麦粉の一番多い部分になります。
蛇足ながら、でんぷんといわずに炭水化物とよぶのは、栄養表示分類に従うためです。つまり糖質と食物繊維をあわせて炭水化物とよびます。また単糖類、二糖類、そして多糖類の3つをまとめて糖質といい、でんぷんは多糖類の一つです。更に小麦粉に含まれる糖質のほとんどはでんぷんであり、食物繊維は0.2%程度であることを考えると、ちょっとややこしいですけど、小麦粉の成分に限って言えば;
「炭水化物 = 糖質 = でんぷん」
となるのです。
さて改めて小麦粉でんぷんとは、どんなものか見てみました。小麦粉から抽出した小麦でんぷんは、見た目は他のでんぷん同様、小麦粉と比べて断然白いことがわかります。次にそれを水に溶いてみるとどうなるか実験してみました。20gの小麦でんぷんをどんぶりにとり10ccの水を加えて練ってみたところ、水の多くかかったところが小さな塊を形成し、全体としてはばらばらの状態に留まりました(画像参照)。次に水を2.5ccを追加するとなんとか一つにはなったものの、完全にきれいな塊になるまでには至らず。そして更に1ccを加え合計13.5ccの水を加えたところ、今度は急に「どろどろ」状態になりました。見た目は液状で、さらさらしているように見えますが、実際はヘラで捏ねようとすると抵抗が大きく、かなり大きな力が必要です。つまり小麦でんぷんを一口で言うと「水が足りないとまとまらず、逆に少しでも多すぎると柔らかくなりすぎ、水に対してはとても敏感で一つの塊にするのは難しい」といったところです。
また苦労してどうにか一つの塊にしても非常に脆く、簡単にひび割れてしまいます。つまりどんなに上手に加水して練っても、生地自体には、「つなぎ力」は全くなく、どちらかというと砂場で作った砂山のような感じです。次にこれを腫れ物に触るように薄く煎餅のように延ばして、ゆでてみます。すると小麦澱粉は、水分を吸収しながら糊化(こか)して固まります。つまり糊状になった段階で生地が「つなぎ力」をもつようになるのです。画像は15分程度ゆでたものを、冷水にさらしたものですが、この状態になるとかなり強く引っぱっても、千切れることはありません(一晩放置すると更に硬く強靱になります)。糊化した部分は透明になり、白いところは糊化してないところです。この辺りの変化の詳細については、(7)でんぷんの項をご参照ください。尚、15分ゆでても重量はそれほど増えず、30g→31.5gと増減率は僅か+5%でした。以上のことから次の事実がわかります。
「小麦でんぷんは、水を加えて練っただけの状態では非常に脆く、苦労して塊にしても簡単に崩れてしまう。しかしゆでることによりでんぷん質が糊化すると、固まりしっかりとした塊になる。つまり小麦でんぷんは、加水し加熱することで糊化し、その結果『つなぎ力』を生じるようになる」。