#197 うどんとグルテンとの接点

#194で紹介したようにうどんを茹でる前の状態での「つなぎ力」はすべてグルテンによります。延ばして切っても、ちぎれないのはグルテンのお陰です。全ての小麦粉には量の差こそあれ、グリアジンとグルテニンが含まれていて、それに水が加わりグルテンができます。小麦粉が穀物の王様になれたのは、その味の良さもさることながら、グルテンによる抜群の加工適性のお陰です。

ところで小麦粉からグルテン(正確には湿麩)を採取する作業を、#194(または「グルテンの採り方」)では機械的に説明しましたが、実はこの中にはうどん作りと共通した点が多くある、というか「うどん作りそのもの」といって良いくらい大切なエッセンスが詰まっています。つまりうどんを上手く作るポイントは、グルテンのそのものを理解することでもあるので、再度この辺りを中心に説明したいと思います。グルテンの採り方は大きく分けて、次のような4つの手順に分かれます:

①水を加える
②しっかり練る
③ぬるま湯を用意する
④しばらく放置する

この中のどの条件が欠けてもしっかりとしたグルテンはとれません。①は全く問題ないと思います。②は「しっかり練る」ことが重要で、これによってグルテニンとグリアジンとが結びついてグルテンができます。そして④練り上げた状態でしばらく放置するのがポイントで、これによってグルテンの網目構造が一層稠密になります(これを構造緩和といいます)。尚、③ぬるま湯を用意するのは、熟成を促進させるためで、これが氷水だと全く話になりませんので、敢えてポイントとしました。さてうどん作りも状況は全く同じです。上の4つをうどん作りに当てはめると次のようになります。

①水合わせ(混合)
②足踏み(捏練)
③最適な温度で
④熟成させる

くどいようですが、ゆでる前のうどんはグルテンの「つなぎ力」によってつながっています。よってこの4つの作業を通じて、いかに強力なグルテンのネットワークを生地の中に張り巡らせるかがポイントになります。①は水分を小麦粉の中にできる限り均一に行き渡らせることが目的です。②の足踏みが足りないのは論外ですが、踏みすぎるのも良くありません。踏んでは折り返す作業を何度か繰り返しているうちに、表面が切れ始めたらそれが終了の合図です。最後にグルテンに着目したうどん作りのポイントをいくつか紹介しておきます。

(1)たんぱく質が少ない小麦粉の取扱い
たんぱく質が少ないと、グルテンの量も少なくなるので、尚更含まれているグルテンを最大限利用する必要があります。また同じグルテン量でも、きめ細かい立体網目構造を形成する必要があります。つまり同じ鉄筋量でも太い柱を数本組み合わせるよりも、細い柱をできるだけ数多く立体的に配置する方が、でんぷんの流出を防止する効果が大です。そしてそのためにも混合、捏練、延ばしを効率よく行う必要があります。

(2)加水量の調整
グルテン(湿麩)の2/3は水です。言い換えるとグルテンはでんぷんに比べて保水力が大きいので、たんぱく質が多い小麦粉程、加水量を多くする必要があります。逆にたんぱく質が少ないとそれだけ加水量を減らす必要があります。またそうなると水に対する緩衝力(水に対して持ちこたえられる力)が小さくなるので、加水量の調整に正確さが要求されます。つまり少しでも多すぎると生地がだれるし(柔らかくなる)、少しでも足りないとまとまらなくなるので、ドンピシャの調整が必要になります。

(3)塩の役割
塩はグルテンを強化します。つまり同じ量の鉄筋(グルテン)でも、塩が入った方が、一本一本の鉄筋の強度(つなぎ力)が大きくなります。よってたんぱく質の少ない小麦粉は、その限られた鉄筋の強度を大きくするために、普通よりも塩を多く加えた方がよいということになります。但し、多ければいくらでも良いというわけではなく、食味の関係もあり小麦粉に対する重量比は6~7%が上限と言われています。

以上を一言でまとめると、たんぱく質の少ない小麦粉は、水は少な目に、塩は多めにということになります。