#220 手延べそうめんテイスティング・・・香育20号 vs 香育21号

さぬきの夢2000の後継品種は、めでたく香育21号に決まり、その名前も新しく「さぬきの夢」に生まれ変わりました(#210)。その選定にあたっては、最終候補として香育20号と香育21号の二つに絞られましたが、生産者、製粉業者、製麺業者(うどん専門店)、及び消費者のみなさん満場一致で、「香育21号がいい!」ということでめでたく決まりました。そして現在は平成25年の全面切替を目標に頑張っています。

ところでさぬきといえば、当然さぬきうどんですが、もう一つさぬきを代表する小麦粉産業、小豆島の手延べ素麺があります。特に小豆島手延べ素麺協同組合(以下素麺組合)の素麺は「島の光」ブランドとして全国に流通しているので、こちらの方が皆さんにとっては馴染みがあるやも知れません。で、既に後継品種は決定済みで事後報告の感はありますけど、「20号と21号の手延べ素麺における製麺適性は如何にや?」ということで、昨年試作いただいた結果をご報告いたします。

実は、現在の「さぬきの夢2000」が開発された当初も、素麺組合で試作をしていただきましたが、そのときの結果はあまり芳しいものではありませんでした。理由は小麦粉に含まれるグルテンが、通常の小麦粉に比べて少ないため、作業性が良くなかったからです。ご存じのようにグルテンは生地の中では、建物における鉄筋の役目をします。よってグルテンが少ないと、それを最大限有効利用するためにはグルテンの網目構造を稠密に張り巡らすことが必要ですが、その作業が難しいのです。

うどんの場合は、まだ太いので少し気をつければ何とかなりますが、それでも大量生産には向かないことはこれまで何度も機会ある毎にご説明しました。乱暴な言い方をすれば、「さぬきの夢2000」を使い、手間暇をいとわず最高に旨いうどんを追求するか、それとも作業性のよいASWで量産を目指すかのいずれかです。

しかし手延べそうめんは状況がうどんとはまた少し異なります。つまりうどんよりずっと細く仕上げなければならないので、尚更グルテンの重要性が増してくるのです。因みに手元にある手延べそうめん1束(50g)を数えてみると約300本ありました。1本の長さが19㎝なので1kgの手延べそうめんを一列に並べると1140メートルになります。つまり1kgの小麦粉を捏ねたものが、1km以上にもなる勘定で、手延べそうめんは太さにして元の生地の1/10000の太さ(細さ)になるというのもご尤もです。

そしてその生地をどんどん引っぱって引っぱって、それだけ細くできるのもそのグルテンのお陰だし、逆にそれだけ細く仕上げるためには充分なグルテンの量だけでなく、グルテンそのものの性質にも粘弾性としなやかさが求められます。誤解を恐れずに言えば、うどんであれば少々アバウトにやっても立派なうどんができますが、手延べそうめんについては、グルテンの性質を限界まで引き出せないと商品にならないのです。手延べ素麺の職人さんは、独特の表現で「よく伸びる粉をもって来てくれ」といいます。これは練った生地を引っぱったときにスイスイ伸びることを意味し、これはしなやかな粘弾性に富んだグルテンがあってこそ可能なことです。

「グルテンが充分でない⇒生地が上手く伸びない⇒だましだまし延ばすと通常の何倍も時間がかかる⇒仕事にならない」。かといって、急いで伸ばそうとすると、途中で「ぶちっと」切れてしまい、そうなると寒い中早朝から作業されている皆さんの心中は察するに余りあります。それほど手延べ素麺にとってはグルテンは大切なのです。よって手延べ素麺におけるグルテンの重要性はいくら強調してもし過ぎることはありません。

話は戻って今回の手延べそうめんの試作でのポイントはその作業性にありました。そしてその結果については、素麺組合の理事長曰く「香育20号も21号、どっちもスイスイ伸びて使いやすい粉やった。それに21号の方は味も文句なくこれやったら全然問題ないわ」っと太鼓判を捺してくれました。だから今度の「さぬきの夢」は手延べ素麺にも使用されるはずです。しかしそうなると狸の皮算用で、今から小麦粉が足りなくならないかと心配さえしています。前置きが長くなって肝心のテイスティングの感想まで到達できませんでしたが、ご希望の方は申し訳ありませんが、「さぬきの夢・島の光」がでるまで今暫しお待ちください。

左から香育20号、香育21号(さぬきの夢)、現在の「島の光」。

左から香育20号、香育21号(さぬきの夢)、現在の「島の光」。