#221 うどん生地①・・・ローラーで延ばすとどんな形になるか?
手打ちうどんは、捏ねた生地を麺棒で巻き取り、それを麺打ち台に押しつけることでだんだんと延ばしていきます。熟練してくると、麺棒の前後の往復運動が連続的になり、「トントントン」という音がでるようになります。これは連続運動が速くなってくると麺棒が一瞬打ち台を離れ、それが着地するときの音で、これを「すかし打ち」といいます。すかし打ちができると、うどんの味がもっと良くなるかといえば、必ずしもそうとは限りません。しかし速く打てるし、何より見た目がかっこいいので、人前で打つ機会が多い人は、すかし打ちの習得をオススメします。
ところで現在のうどんといえば、ほとんどが機械製麺でスーパーで並んでいるうどんは、間違いなく機械麺です。またうどん専門店といえども、純手打ちうどんが食べられるお店は極めて少数派で、大抵は製麺機を利用しています。そして機械製麺の場合、生地を延ばすのはローラーの役目です。ローラーは一対の鉄製(もしくはステンレス製)の円柱でできていて、生地の厚みより狭いの間隙に生地を通過させることで、生地が延びる仕組みです。
さてここで問題です。もし長方形の生地をローラーで延ばすとどんなどんな形になるか想像してみてください。薄くなった分だけ面積は広がりますが、問題はその広がり方です。後方に長く延びるのはある程度予想できますが、それでも「横には延びないのか?」、「後方になるほど横に広がらないのか?」といった疑問も湧いてきます。そこで可能性としていくつか次のようなバリエーションを考えてみました。どれが正解がよく考えてください。
最も分かりやすいのは①で、これは横幅は変わらずに後方だけに長く延びる場合です。②は横にも縦にも延びる場合。③は横にも延びるけれど、後方になるほど横への広がり具合いが大きくなる場合。そして④は横にも少し広がるけれど、主に後方に延び、最後は扇形というか凸型に膨らむ場合です。
正解は実は④になります。色々理屈をつけた説明はあるようですが、あまりピンとこないのでそのまま事実としてお認めください。実際に圧延した様子が、次の画像をです。ここで特徴的なのは、中心部分がより後方に向かって飛び出ることです。これは圧延方向と直角に引いた太線の変形の様子をみればよくわかります(かすれているのは、生地が延びたせいです)。
よってローラーを通過する度に、後方の「出っ張り」はますます大きくなり、何度も通過して最終的にはうどんの厚さになった頃には、後方は楕円のようになってしまいます。この状態でカッターで切ると、楕円形の部分は短い麺になってしまうので効率的とはいえません。ではどうすればいいかといえば、一度順方向で延ばすと、次は逆方向に延ばせばいいのです。こうすれば両方の効果が相殺されて、延ばした後も長方形が保持され、無駄がなくなります。
今ここで考えた例は、ロール幅が生地の幅よりも広いケースで、生地は縦横自由に延びることができました。では次のようなケースを考えてください。麺生地の幅とロール幅が同じで、ロールの両端には生地がはみ出ないようにガイドがついています。因みにこのガイドを刀の鍔(つば)に喩えてガイド付ロールのことを「鍔付ロール」、逆にガイドが付いてないロールを「鍔なしロール」といいます。そしてロール幅一杯の生地を、鍔付ロールで延ばすとどうなるか想像してください。
すると横幅はもう広がることができないので、後方に延びるしかありません。問題は最後がどうなるかですが、この場合は①になります(上画像参照、ここでロール通過後画像の先に「ぼわぁ~」と黒い孤が見えるのは、先に延ばしたとき、ロールに付いた墨の跡です)。つまり生地は歪まず真っ直ぐ後方に延びることになります。簡単にまとめると、ロール幅一杯の生地を鍔付ロールで延ばすと①になり、鍔なしロールだと④になります。消費者の皆さんには別にどっちでも関係のない話ではありますが、先程触れたように実際の製麺工程では役に立つこともあります。