#224 うどん生地④・・・グルテンの方向性がうどんに及ぼす影響
新着情報#223では、生地中のグルテンに方向性があると、ゆでたときに長さや太さに影響がでることを確認しました。具体的にはグルテン方向(圧延方向)と同じ方向にカットしたうどんは太くなり易く、直角にカットしたうどんは長くなり易くなります。ここではこれ以外にどんな影響があるのかご紹介します。
建物を建てるときは、鉄筋を効率よく配置することが重要です。鉄筋をけちると耐震偽装になりますが、同じ量の鉄筋でも一ヶ所に偏ったり、同じ方向ばかりに組むと充分な強度が保持できなくなります。うどんも同じことが言えます。水回し工程や捏練工程(塩水と混合し捏ねるまでの作業をいいます。この二つを合わせて混捏ともいいます)をないがしろにすると、グルテンそのものが充分にできないので、鉄筋の量が不足することになります。小麦粉に含まれるグルテニンとグリアジンを全てグルテンに変えるには、「水」と「捏ねる」という2つの要素が必須です。
実際の建物で鉄筋が不足すると、地震や台風などの衝撃で倒壊する可能性がありますが、うどんはグルテンが少ないと切れたり、ゆでたときにでんぷんが溶けて角がとれる、所謂「角落ち」の現象が起きたりします。角の立った、見るからに食欲をそそるうどんは打つには、生地を充分に捏ねてグルテンを作りだし、それを均一な立体網目構造に形成することが大切です。特にタンパク質の少ない小麦粉は、そのグルテンを最大限利用するために混捏作業はことさら重要です。
以上を予備知識として乾麺のうどんを考えてみます。乾麺のうどんの製造は、基本的には鍔付ロールで同一方向に延ばすだけなので(#222、#223)、グルテンは方向性を持ち、それはうどんの長い方の面と平行になっています。つまり乾麺のうどんは、ゆでるとある程度は長くはなるけれど、それ以上に太くなりやすいうどんと言うことができます。よってゆでる前は、「えらぃ細いなぁ」っと感じても、ゆであがりは「そこそこ太じゃないか」ということになります。
ではこれ以外にどんなことが起こるかといえば・・・。うどんを乾燥するとき、うどんの表面は空気に触れているので速く乾燥する一方、中心部分の水分は動きません。つまり乾燥は表面から始まり、最初は表面近くの水分が低くなるのに、中心部分は高いままで、うどんの内部には水分勾配が発生します。次に中心部分から表面に向けての水分移動が起こり、移動した水分は表面から蒸発するという手順をとります。そしてこのとき乾燥のスピードが速すぎると、水分勾配が大きくなりすぎて、表面はカラカラ、中心はべとべと状態になり、そこにねじれ現象が発生します。するとこれが原因で生地は破断することになりますが、このとき亀裂は縦方向に入ります。理由は、グルテン繊維が縦方向ばかりで横には走ってないからです。
ただ乾燥不良によるこの亀裂は、乾燥終了時にはわからないことが多く、一見きれいに乾燥しているようには見えます。しかしゆでてみると、うどんはその亀裂の方向、つまり縦に真っ二つに割れてしまいます(画像参照)。まあ、薪が縦にすぱっと割れるのと同じです。この乾燥不良による現象を「縦割れ」といいます。縦割れが起きると、うどんは細くなり、また水っぽくゆで上がるので食べても美味しくありません。つまり乾麺のうどんは、縦方向ばかりにグルテン繊維が走っているので縦方向の衝撃には強いけれど、横方向にはグルテンが走ってないので、これが時に問題を起こすのです。
では反対に圧延方向と直角にカットしたうどんはというと・・・。横方向には強いけれど、縦方向の衝撃にはもろくなります。次の画像は、このようなうどんを乾燥させてゆでたものです。今度は縦割れはしないものの、横方向にグルテン繊維が走ってないので、短麺ができやすくなります。
つまり生地を延ばすときは、縦横斜め全ての方向に延ばす方がいいことがわかります。じゃあ、味もそうかといえば、それはあまり関係ないように思います。良い反例は手延べ素麺です。手延べそうめんは一つの生地をどんどん引っぱり続けて最終的には元の1万分の一の細さにしますが、これは構造上、縦方向のグルテン繊維しかできていません。でも手延べそうめんを美味しくないという人はいません。こう考えると味の善し悪しは混捏作業や熟成が重要なウエートを占めるようです。